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2月22日:ゲノムとエピゲノムの統合(2月19日号Nature掲載論文)

2015年2月22日

2月29日号のNatureはヒト組織や細胞のエピゲノムの網羅的解析に関する論文が集められた特集号だった。ゲノムは言うまでもなく情報だ。ただそれぞれの細胞で、すべての情報が使われるわけではない。同じ細胞で同じ情報を安定して使うため、特定のゲノム部分に遺伝子の使い方を決める様々な標識をつけていくエピジェネティックス機構がある。この標識は細胞外の環境が同じならそのまま子孫細胞に伝わるが、ゲノムとは異なり、細胞外の環境に反応でき、その環境に適合した違うエピゲノムを持った細胞に変化できる。これが分化やリプログラム現象だ。即ち、病気も含めて、個体、組織、細胞が環境に応じて変化する過程についての研究は、ゲノムとエピゲノムの統合を目指している。今日はこの特集号から、MITのBradley Bernsteinのグループの論文を取り上げる。Bernsteinはエピゲノム解析分野をリードしてきた機知に富む研究者で、彼の論文はいつも将来への示唆に富んでいる。論文のタイトルは「Genetic and epigenetic fine maping of causal autoimmune disease variants(自己免疫病の原因になる遺伝及びエピジェネティック変異地図の作成)」だ。膨大な仕事ですべて紹介できないが、自己免疫病の様々なデータを集め、ゲノムとエピゲノムを統合した地図を作成して、自己免疫病の原因を明らかにするための情報データベースを構築しようとしている。これまで、ゲノムレベルの自己免疫病の研究というと、自己免疫病に関連するゲノム上の変異を探索することだった。この結果が現在、例えば昨日紹介した遺伝子検査に使われている。ただ、遺伝子検査の予測性が低い最大の原因は、関連づけられた変異の因果性が強くないことだ。特に、多くの変異はタンパク質に翻訳されないゲノム部分に存在しているため、動物実験で因果性を確かめることが極めて難しい。この研究では新しいPICSと名づけられたアルゴリズムで、予測性を高めるとともに、変異を免疫に関わる様々な細胞のエピゲノム、特にエンハンサーやスーパーエンハンサーと関連付けることで、この問題を克服できないか調べている。研究ではまず、新しいアルゴリズムを用いてこれまでの研究より自己免疫病との因果性の高い変異をデータベースより集めている。次に、国際コンソーシアムによって集められたエピゲノムデータの中の、アセチル化されたヒストン標識を目安に、免疫に関わる細胞で働いているエンハンサーやスーパーエンハンサー部分を特定し、PICSにより選んだ個々の変異をこれらのエンハンサー部位にマップしている。まさに、ゲノムとエピゲノムを統合する研究だ。これにより、それぞれの自己免疫病で働いている免疫細胞や、サイトカイン、あるいは転写因子の関係が浮き上がってくる。例えば、自己免疫病と相関する変異は、活性化されたリンパ球のエンハンサー部分に集中している。病気の多くは、CD4T細胞で働くエンハンサーと関連するが、SLEや川崎病はB細胞との関連が強い。さらに調節性T細胞を刺戟するIL2受容体遺伝子を調整するスーパーエンハンサーと変異との関わりも浮き上る。また同じエンハンサーにマップされる変異も、病気ごとに場所が違う。これまでSNPの論文を読んできたが、そのとき感じる無味乾燥な統計学という印象がすべて払拭され、データを目で追うだけで面白い。これ以上紹介しないが、おそらくそれぞれの病気に興味を持つ医師や研究者にとって素晴らしい贈り物となること間違い無い。もちろんこれはまだ始まりだ。ゲノムとエピゲノムの統合。私が最初にこの話を聞いたのは10年以上前だ。それが今や現実となったことを実感し興奮する。しかし、我が国からもこのような論文が生まれる可能性はあるのだろうか。そう考えだすと、興奮は冷める。


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