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5月1日:X染色体不活化の分子機構(Natureオンライン版掲載論文)

2015年5月1日

哺乳動物の性染色体はオスがXY,メスがXXだが、オスメスでX染色体の数が違うとことが細胞の活動にとって調整しなければならない問題になる。確かに多くの遺伝子は、片方の染色体で欠損が起こっても、問題がないことが多いが、中には少しの発現量の違いが致命的になる遺伝子も存在する。このため動物はX染色体上の遺伝子発現を調整する様々な仕組みを進化させてきた。その中でももっとも巧妙な仕組みが哺乳動物で見られる。片方のX染色体だけを不活化するX性染色体不活化と呼ばれる仕組みで、この機構により女性の体細胞ではどちらか片方のX染色体がランダムに不活化されている。X染色体の不活化の鍵を握っているのがXistと呼ばれる長いRNAで、片方のX染色体の不活化中心から転写され、その染色体全体を覆い、染色体構造を遺伝子が発現できない抑制型にしている。ただ、XistはRNAであり、それ自身で染色体の構造変化を誘導する力はない。Xistが様々な分子をリクルートし、最終的にヒストンの脱アセチル化、抑制型メチル化と進める必要がある。実を言うと、私はこの分子機構はすっかり明らかになっていると思っていたが、様々な技術的な問題のため、Xistと直接結合している分子についてはほとんど分かっていなかったようだ。今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文はXistに結合している分子を独自に開発した方法で特定した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「The Xist lncRNA interacts directly with SHARP to silence transcription through HDAC3 (長い非翻訳性RNA・Xistは直接SHARPに結合しHDAC3を介して転写を抑制する)」だ。この研究のハイライトは何と言ってもXist結合タンパクの新しい精製方法だろう。RNAはその配列に相補的配列を持つ核酸と結合することから、Xistを精製するのは難しくないはずだ。しかしXistと結合している分子と結合したまま、相補的核酸で精製するのが極めて難しかったようだ。この研究では、まずXistに結合するタンパク成分を紫外線を使ってXistに共有結合させた後、核酸を変性させ、ビオチン標識した相補的配列でXistごとタンパク成分を精製し、そのアミノ酸配列を質量分析法で特定している。書けば簡単だが、本当は大変な苦労だったと推察する。それでも非特異的に結合している分子を拾ってしまうようで、2013年12月8日、このホームページで紹介したSILACと呼ばれる方法を用いて(http://aasj.jp/date/2013/12/08)、同じようにU1・ RNAに結合している分子と比べることで、Xist特異的結合分子の特定に成功している。最終的に10種類の分子が特定でき、遺伝子ノックダウンを用いてX染色体不活化に関わる分子を特定することができた。後は、それぞれの分子とXistの相互作用を丹念に調べた実験から、次のようなシナリオを提案している。Xistの転写が始まると、まずSAF-A分子が結合しているX染色体部位に結合する。このXistにはSHARP, SMRT,そしてHDAC3が結合し、このHDAC3がヒストンのアセチル基を外して転写を抑制する。その後この不活化された状態はPRC2を介するヒストンをメチル化により安定に維持されるというシナリオだ。分子が特定されたことで、このシナリオはさらに詳細になると想像する。このように分子の機能と相関させたシナリオが示されると、私のような素人の頭の中もうまく整理できる。重要な貢献だと思う。


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