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5月21日:深酒を止める分子(米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)

2015年5月21日
いつから毎日酒を飲むようになってしまったのか思い出せないが、少なくとも熊本大学に在籍している頃まではそうではなかったと思う。今はほぼ毎日主にワインを飲むが、ではなぜ飲みたくなるのかと考えてもよくわからない。日中に飲みたいと思ったことはないし、なければないでなんとかなる。以前イランに旅行した時1週間近く禁酒を余儀なくされたが、それはそれで受け入れられた。とはいえ、帰りの飛行機に乗ってシートベルトサインが消えた途端、ワインをお願いしますと頼んだことも確かだ。要するに、酒飲みの隠居なのだが、そんな自分を見つめるとアルコールの習慣とは意識と無意識の絶妙だが壊れやすいバランスの上に成立していると思う。今日紹介するスクリップス研究所からの論文は、そんなバランスの一端を解明する研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「GIRK3 gate activation of the mesolimbic dopaminergic pathway by ethanole (GIRK3はアルコールによる中脳辺縁系経路の活動を制限する)」だ。GIRK3はGタンパクの作用で調節されるカリウムチャンネルで、この分子をノックアウトしたマウスについてのこれまでの研究から、この分子が欠損しても脳機能はほとんど影響を受けないが、コカインに対する中毒が抑制されることがわかっていた。そこで、この分子が中毒に関わる分子かどうか調べる目的で、同じノックアウトマウスを用いてアルコールに対する反応を調べたのがこの研究だ。結果は予想に反して、コカインとは逆で、この分子がないと深酒をするようになるというのが結論だ。まずアルコール自体に対する身体反応にこの分子は全く関わらない。しかし、アルコール摂取後回復期に、尻尾を持ってクルクルと回してやると、普通のマウスは気持ち悪がって痙攣を起こすのだが、この分子の欠損したマウスはこの反応がない。そこで普通の生活でアルコールに対してどう反応するか調べると、このノックアウトマウスは際限なく飲んでしまうことがわかった。後の実験は、この分子が欠損すると、アルコールによる中脳の腹則被蓋野にある神経の興奮が抑制され、この神経細胞が中脳辺縁系へ投射することでドーパミン作動性の回路が形成されるが、この分子が欠損するとこの回路が遮断されることを示した生理学的研究だが、回路の詳細解明にはまだ研究が必要だと思う。おそらくこれから、光遺伝学を用いたりして深酒マウスが作成され、さらに細胞レベルの研究が進むだろう。この研究が示した行動実験から見ると、要するに飲んで気持ちが悪くなることで制限をかける神経のようだが、もう一つ重要な要素は飲んでいい気持ちにさせる神経のほうだろう。このバランスが理解できれば私の生活ももう少し健康的になるかもしれない。

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