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5月24日:標的分子を壊す薬(Scienceオンライン版掲載論文)

2015年5月24日
分子標的薬という言葉は、特定の分子の機能を増強したり抑制したりする薬で、新しく医療に登場した一群の薬という意味で使うことが多い。しかしアスピリンを始めほとんどの薬は基本的には分子標的薬と呼んでもいいはずだ。従って正確に定義するなら、分子標的薬とは最初から作用メカニズムが明らかな分子を狙って開発された薬を意味すると考えればいいだろう。タミフルで大成功し、最近一錠6万円の話題のC型肝炎治療薬ソバルディを開発したギリアドサイエンス社は、この分子標的治療薬開発の象徴だ。1987年創業のベンチャー企業だが、今や売り上げは3兆円に迫り、分子標的薬開発力を見せつけている。こうして開発されるほとんどの薬剤は、標的を壊すのではなく、機能を阻害、あるいは増強する。これに対し、サリドマイドを代表とするフタルイミド系薬剤は、最近の研究でセレブロン分子を介して標的分子をタンパク分解複合体に運び、直接分子を分解することで効果を発揮することがわかった。私もこのホームページでこのメカニズムを紹介しているhttp://aasj.jp/news/navigator/navi-news/827)。この時私は 「しかし、特定の蛋白質の分解を化合物で誘導できると言う今回の研究は、新しい可能性を示している。先ず、メカニズムが明らかになる事で、レナリドマイドより更に優れた薬剤の開発が可能になる事だ。もう一つの可能性は、同じメカニズムを使って、異なる腫瘍で、異なる分子を特異的に分解する可能性だ」  と、このメカニズムが新しいデザイン創薬を可能にすることを想像した。今日紹介するハーバード大学からの論文はまさにこの可能性が現実であることを示した研究でScienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Phtalimide conjugation as a strategy for in vivo target protein degradation (フタルイミド化合物は標的タンパクの細胞内分解に利用できる)」だ。この研究ではサリドマイドとレブロン分子との結合を壊さない形で、BRD4と呼ばれる転写因子に特異的に結合する化合物を合体させ、新しく合成したdBetがこの分子実際分解できるか、またこの分子が増殖に必要なガン細胞の増殖を抑制できるか調べている。詳細を省いて結論に行くと、期待通りこの化合物は実際の細胞内でBRDファミリー分子を全て分解する。さらに、マウスに移植した白血病の増殖をこの化合物で抑制することができるという結果だ。また、この効果はプロテアソームを阻害すると消えることから、予想した通りフタルイミド化合物に結合したレブロン分子を介して、BRD4分子がプロテアソームに運ばれ分解することがわかった。BRD4以外にも、FKBP12分子に対する化合物を使うと、同じように細胞内で特異的に分子を分解できることも示している。効果を見ると、完全ではない。これはレナリドマイドなど実地臨床に使われている薬剤と同じだが、将来性は大きいと感じる。この方法だと、化合物が分子の活性部位に結合する必要はない。特異的な結合さえあれば、その分子を分解して全体的に細胞内の濃度を下げることができる。この意味で、創薬の標的レパートリーを大きく拡大できると期待できる。ギリアド・サイエンスもそうだが、このような論文を読むたび基礎と臨床の「死の谷」などどこ吹く風で創薬が急速に進展していることを感じるとともに、我が国の医学研究助成政策はこの状況を本当に織り込んで進められているのか心配になる。

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