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5月31日:選ぶべき経路を思い描く脳回路(Natureオンライン版掲載論文)

2015年5月31日
過去の経験に固執せず様々な分野の研究論文を読もうと心がけているが、自然と苦手分野が出来てくる。その中の一つが、連続的な神経活動記録と行動の相関を調べる研究だ。もともと現役の頃ほとんど読むことがなかったのと、多くの神経細胞を同時に記録してその活動を行動に投影するという膨大な処理がされており、示された実際のデータも理解しずらい図が多いため、どうしても想像を交えながらメッセージを切り取るしかない。今日紹介するのはこの典型で、昨年ノーベル賞を受賞したモザー夫妻の研究室からだが、間違った理解をしているかもしれないと最初から断ったほうがよさそうだ。筆頭著者はItoさんとあるので日系の人だろう。どうでもいいことだが、つい目がいく。タイトルは「A prefrontal-thalamo-hippocampal circuit for goal-directed spatial navigation (ゴールをめざす移動をナビゲートするための前頭前部—視床—海馬回路)」で、Natureオンライン版に掲載されている。年をとると、何か行動を起こした後、何のために起こしたのか忘れてしまって途方にくれることがある(私だけかもしれないが)。逆に言うと、行動とは何か目的や意図があるのが普通で、意図と現在の行動の相関が外れるとどうしても不安にかられる。言うまでもなくモザー夫妻は脳の中の位置や経路をマップする神経回路を研究してノーベル賞に輝いた。この研究では、迷路を走るラットが分かれ道で右か左か決める時、これから選ぶ経路が脳内にどのように表現されているのかを調べている。前向きにしか進めない経路の途中に分かれ道があり、例えば右に行けば褒美が得られ、その後またスタートラインに戻るような設計の迷路を作り繰り返させる。次の選択の経路が脳内に前もって表現されているなら、分かれ道に差し掛かる前から、次に選ぶ経路を想像して活性化する脳神経が存在するはずで、それを調べている。実際には、記憶を始め様々な情報が統合される海馬のここの神経細胞を50−100個同時、連続的に記録し、次の経路を反映する神経が海馬のCA1と呼ばれる場所にあることを突き止める。面白いのは、これらの神経が最も興奮するのは、どちらに行くかを決めなければならない分かれ道のすぐ手前だ。次にCA1に結合している視床の結合核細胞を同じように記録すると、やはり選んだ経路と反応が相関する細胞を記録できる。この時の興奮は割と早めから始まり、経路を選んだ後褒美をもらうところまで続く。視床は前頭前部と神経結合があるので、今度は300以上の神経細胞を同時記録すると、期待通り選んだ経路に相関する神経細胞が記録できる。この神経細胞は視床と同じで分かれ道のかなり手前から興奮し始め、選んだ後も興奮が続く。回路の支配関係を調べるため、視床結合核を取り除いたり、興奮を抑えると分かれ道手前で起こる海馬の興奮は抑えられ、海馬がCA1の反応を変化させていることがわかる。この実験では繰り返し同じ経路をグルグル回ることになるので、前のトライアルの記憶をこれらの神経が表現している可能性がある。これを否定するため、次のトライアルに入る前にスタートラインに戻ってきたところで時間をおいてすぐ前の記憶を消すと、それぞれの経路表象に関わる神経は分かれ道に近づくにつれ興奮が上昇することを確認し、この可能性を否定している。結論的には、前頭前部、視床、海馬と行くべき経路の予想図が受け渡され、海馬で他の地図情報と統合されるというシナリオのようだ。多くの神経の同時連続記録、光遺伝学による神経興奮操作などを駆使した研究が動物行動学を変化させていることを実感する研究だ。まだまだ理解しずらいところも多いが、生命とは何か、生命の情報とは何かを考えるためには脳研究から目が離せないことを実感している。今後も苦手を厭わず手にとって読む、これが重要だろう。

  1. 櫻井 惠 より:

    生活臨床派の臨床心理士を目指して博士課程後期課程で研究を行っています。
    人間の気持ちとか感情ってきちっと数学の計算のように行くのか疑問です。

    1. nishikawa より:

      ここで使われているのは推計学的手法です。脳研究がこれに頼るのは、逆に現象に法則性のないことの裏返しかと思います。櫻井さんが数学というときは、法則性のある現象を扱うための数学のように思います。

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