AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 6月19日:糖尿病で傷の治りが悪い原因(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

6月19日:糖尿病で傷の治りが悪い原因(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2015年6月19日
誰もが当たり前と思っていることは意外と研究されていないことが多い。例えば糖尿病で傷の治りが遅いことは古くから知られた事実だが、その背景にあるメカニズムについて完全な定説があるわけではない。一般的には、血管、血液、神経が複合的に絡み合ってこのような現象につながっているのではと説明しているが、こう決めてしまうと治療法が見つからない。結局患者さんには「糖尿病ですから傷の治りが悪いです。できるだけ怪我をしないように」と注意するのが関の山だ。今日紹介するハーバード大学からの論文は糖尿病でおこる白血球機能異常のメカニズムを追求し、傷の治りを早める治療法のヒントを提供する研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Diabetes primes neutrophils to undergo NETosis, which impairs would healing (糖尿病は白血球の細胞外DNA放出を促し傷の治りを障害する)」だ。この研究では糖尿病患者白血球のNET(Neutrophil Extracellular Trap)に注目している。NETとは感染に対する防御反応として白血球が脱凝縮したDNAを組織に吐き出す現象で、DNAで細菌を絡め取るという巧妙なシステムだ。ただ、脱凝縮したDNAを吐き出すためには、PADI4と呼ばれる酵素でヒストンをシトルリン化しておく必要があり、NETが起こるときに白血球ではこの酵素が上昇し、シトルリン化したヒストン3の量が急上昇する。この脱凝縮に関わるのがPADI4と呼ばれる酵素だ。例えば、リンカーヒストンをシトルリン化して脱凝縮するPADI4の発現が山中因子によるiPS誘導に必須であるという論文が小保方論文とほぼ同じ時期にNatureに発表されている(Nature, doi:10.1038)。ただ、白血球でのシトルリン化は転写調節というより粘度の高いDNAを直接使うための戦略になってている。この研究では、糖尿病の患者さんの白血球でPADI4が上昇しており、刺激によりNETが強く誘導されることに注目し、このNETが傷口の治りを遅くする原因ではないかと目をつけている。次に、PADI4の発現とNET上昇が、糖尿病の複合的、慢性的影響ではなく、白血球が高濃度の糖に晒されると誘導されることを示している。すなわち急性的に高血糖を誘導しても、正常白血球を試験管内で高濃度の糖と培養してもPADI4が誘導され、ヒストンのシトルリン化が起こる。そこで、PADI4の欠損したマウスで傷の修復を調べるとNETは起こらず、傷口に核酸のネットワークは形成されず、傷も早く修復される。詳細は省くが詳しい実験を繰り返して、糖尿病で傷の治りを悪くする主原因がPADI4誘導、ヒストン3シトルリン化、そしてそれに続くNETであることを確認して辿り着いた治療法が、吐き出されるDNAを酵素で溶かしてしまうという乱暴な方法だ。実際にはクロマチンが脱凝縮しているおかげでDNase1により分解されやすい。期待通りDNase1の注射で、傷の治りは早くなり、上皮の回復も早い。これまでの謎が解けたという気持ちになる論文だった。ただ一つ気になるのは糖尿病でNETが上昇するなら、傷の治りは悪くても傷口の感染にはいい効果があるのではという懸念だ。まあ抗生物質があるから気にしないで、素直に理解できたことを喜んでおこう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*