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6月30日:タイムリーなコメント2題(6月25日号Nature掲載記事)

2015年6月30日
NatureやScienceは研究論文を掲載するだけでなく、その時々に重要と考えられる問題について専門家の意見を求めて掲載したり、ミーティングにエディターを参加させ、その紹介記事を掲載している。これら記事は、我が国の政策や文化を、他の国と比較するのに格好の材料になる。今年3月25日ここで紹介したヒト受精卵の遺伝子編集にモラトリアムを呼びかけたNapa会議についてのScienceの記事(http://aasj.jp/news/watch/3113)は、そんな記事の典型だろう。この会議に集まった科学者の結論は「クリスパーテクノロジーを進化させると同時に、世界的な会議を組織化して議論を深める」というものだった。早速これを受けて今年の秋アメリカアカデミーが主催する会議が開かれるようだが、Natureは政治的・文化的対策を最終的に決めるのは科学者でないと警告を発するDaniel Sarewitzの論文を掲載した。誤解を恐れず一言で紹介すると、この人は、科学というイデオロギーを、民主主義社会に位置づけ直すため、ピアツーピア型の解決が可能か模索している人で、我が国の倫理学にはない新しい発想をする人だ。米国アカデミーの会議の呼びかけに対しSarewitzは「Science can’t solve it(科学では解決できない)」というタイトルでコメントを書いている。コメントの要点は、1)米国アカデミーが「クリスパーによる遺伝子編集をいつどこで利用するかは共同体の意思にかかっている」と言いながら「決断をガイドする」と言って、最後は科学者が決めるという態度をとっているのは間違いだ、2)科学者が誰かを代表していることはない(我が国にも、国民のために私は頑張っていると思っている科学者は多いのではないだろうか)。この多様な文化や価値の絡み合った社会での最終意思決定に科学者は参加できない、3)実際、遺伝子組み換えや温暖化などの問題は、欧州など多様な文化が共存する国では議論が決着することはない、4)テクノロジーのリスクについて科学が答えることは本来できず、あたかもそれができるように振舞うことが反科学に火をつける、と論じた後で、ボトムアップ型、コレクティブインテリジェンス型の新しい議論のためのプラットフォームを構築することの重要性を指摘している。その例として、デンマークのThe World Wide Views allianceやNASAのThe Expert and Citizen Assessment of Science and Technologyをあげている。我が国でもクリスパーについて議論すべきだという話が盛り上がってきたようだが、生命倫理に携わる人たちが是非そのために全く新しいプラットフォームを形成する気概を持って会議を主導するぐらいの気持ちを持って欲しい。   同じ号のNatureにもう一つ「Urbanmicrobes unveiled(大都会の細菌叢がベールを脱いだ)」というタイトルで、6月19日ニューヨークアカデミーが主催した「大都会の細菌叢」という1日ミーティングのレポートが掲載されていたのでついでに紹介しておく。と言っても、ニューヨークアカデミーが細菌叢研究者を集めて、ニューヨーク市民がどのような細菌叢と共に暮らしているのかについて議論した以外何も紹介していない。もう少しすれば正式な記録が出ると思うので、1度目を通して紹介しようと思う。ただ、細菌叢という言葉を、ここまで拡げて議論できる頭の柔らかさには驚いた。背景には、バイオテロ対策という衛生局のアクションプランがあるのだろうが、家庭、地下鉄、下水、ネズミやラットなどの動物など大都会の細菌叢のマップを作りたいという壮大な構想がうかがわれる。このような構想を政治家が出すことはない。結局役所の中で知識を蓄積し、将来を議論する中で生まれる構想だが、我が国の役所もこのぐらいの構想力を示せるようになって欲しいと思う。

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