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7月1日:生きたマウスの脳神経接合を観察する(Natureオンライン版掲載論文)

2015年7月1日
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科学の進展はいつも新しい方法の開発とセットになっている。例えば免疫学や血液学は2013年に亡くなったHerzenbergらが開発したFACSと呼ばれるセルソーターにより大きく変革した。わたし自身も、臨床医を辞めて基礎研究を始めた時から第一線を退くまでこの技術のお世話になった。脳研究でこれに匹敵するのがDeisserothの光遺伝学だろう。最近の論文を読んでいると、この技術を使わないのは脳科学者ではないという印象すら受ける。この技術を見て個人的に興味を惹かれるのは、両方の技術がスタンフォード大学で開発され、HerzenbergもDeisserothともドイツ語由来の名を持っていることだ。おそらくスタンフォード大学にはこのような伝統が息づいているのだろう。ドイツ語名の方はわたしの深読みかもしれない。Herzenbergは個人的にも親しく、もちろん生粋のユダヤ系アメリカ人だと知っている。とはいえわたしにはZeissやLeicaを生んだ、物を観察するドイツの伝統の血が流れているように思える。前置きが長くなったが、今日紹介するのもスタンフォード大学からの論文で、しかもSchnizerというドイツ語名の研究者が責任著者で、脳内の神経細胞の軸索を生きたまま観察する方法の開発だ。タイトルは「Impermanence of dendritic spines in live adult CA1 hippocampus (CA1海馬の樹状突起スパインは永続的ではない)」だ。海馬は記憶を理解する鍵として最も研究されている領域で、そこでの伝達は神経細胞の樹状突起から飛び出すスパインという細胞突起により担われている。このスパインを生きたマウスの脳内で長期観察するというのがこの研究の目的だ。従来のスパイン研究は、切りだした脳を培養しそれを観察する方法が主流だった。この論文に引用された論文から、組織の深い部位を観察する2光子顕微鏡の開発後は、生きた動物の脳内で観察するための挑戦が進んでいたことがわかる。これらの挑戦の中で、2光子顕微鏡と、直径1ミリのGRINレンズと呼ばれる一種の内視鏡を組み合わせた技術を開発した点がこのグループの売りのようだ。この論文では生きたマウスの海馬の一本の神経樹状突起から出るスパインを22日にわたって観察している。さらに、このマウスを、好奇心を刺激する環境で過ごさせてから、元のケージに戻すなどの行動実験も行える。ただ観察自体は連続ではない。3日おきに観察しているので、同じ細胞を見ているのかどうか検証が必要だ。研究ではまずこの検証が行われている。その上で、刺激的環境に置かれた時や、グルタミン酸受容体の阻害によるスパインの変化を観察して、海馬神経細胞のスパインと新皮質のスパインの動態を比べている。実際には何千ものスパインを計測し、モデリングを元に評価するという作業を行う膨大な研究で、見えないとできないが、見えればそれで済むというものではない。詳細は全て省いて結果をまとめると、スパインの動態は海馬と新皮質で異なり、新皮質のスパインは変化のない安定したスパインと、出たり入ったりする動的なスパインに別れる一方、海馬のスパインは全て動的で安定しないという結果だ。この動態は、海馬がとりあえず記憶を一旦中継させる短期記憶に関わり、新皮質は出入りする不安定な記憶の中から安定した記憶を固定させる過程に関わるというこれまでの考えに合致しており、めでたしめでたしだ。しかしこのような結論より、何と言ってもこの仕事のハイライトは1月近く脳の中の細胞を見続けたことにあるだろう。この技術を核にこれから何が明らかになるのか、楽しみな技術だ。当分スタンフォード大学ドイツクラブの伝統は続くように思える。

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