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7月3日:低線量被曝による白血病発症リスク(7月号Lancet Hematology掲載論文)

2015年7月3日
放射線がDNAを切断することで突然変異を誘発することは、疑いようのない科学的事実だ。とすると、放射線を浴びると遺伝子の変異が引き起こされ、一定の確率でガンが発生することも間違いがない。事実、広島、長崎の被曝者の追跡調査で、被曝後数年して白血病発症数の増加が見られている。問題は、原爆のような大規模被曝ではなく、低線量を長期にわたって浴び続ける影響だ。我が国のデータは手元にないが、一般のアメリカ人は1年間に6ミリシーベルトの放射線を浴び(2006年調査)、そのうち半分が医療による被曝だ。低線量の場合、身体に備わった放射線修復機構、組織の複雑さなどから単純に被曝量に比例しない。また、人間のように生活習慣が多様な場合、その差による要因も大きく作用する。そのため、長期低線量被曝により発がんの危険性が上がるかどうか常に議論になってきた。実際2007年に発表された原子力施設で働く労働者40万人についての15カ国共同追跡調査では、肺がんと、骨髄腫に弱い相関が見られるだけという結果だった。今日紹介する論文はこの調査の延長でフランス、イギリス、アメリカに絞りより長期の追跡を行った結果で、The Lancet Hematology7月号に掲載された。タイトルは「Ionizing radiation and risk of death from leukemia and lymphoma in radiation-monitored workers ( INWORKS) an international cohort study (被曝量が記録された労働者の白血病とリンパ腫の発症リスク:国際コホート研究)」だ。この研究では原子力施設で働き毎日の被曝量が計測・記録された労働者30万人を平均で27年追跡しており、おそらくこれまで最も長期間の追跡調査だろう。障害被曝量は極めて多様で、0−1200ミリシーベルトと幅がある。平均値で大体16ミリシーベルトだ。対象者のうち531人が白血病(慢性リンパ性白血病は除いてある)で亡くなっており、以前の15カ国共同研究の196人と比べると統計的により正確な推定が可能になっている。結果をまとめると、白血病による死亡と低線量被曝は明確な相関があり、特に慢性骨髄性白血病ではその相関がよりはっきりするという結果だ。この結果から生涯被曝量が200ミリシーベルトを超えると明確な白血病リスクがあると結論できる。重要なのは、それより低い線量でも危険性があることで、わかりやすく言うとばらつきは大きくなるが、危険はあるということだ。他の生活要因の差を見ているだけではないかという可能性もあるが、今回算定された相関は喫煙との相関よりは高い相関があるようだ。要するに、調べる母数を増やし、長期間追跡すれば被曝のリスクは統計学的にも検出されるという結果で、物理学的にも当然の結果だろう。また、被曝者追跡調査の結果とも一致する。このことを頭に入れて各人が放射線検査を受けるかどうか判断すればいい。私はこれを理解した上で、これからも低線量CTを検診で受けようと思っているし、この歳になれば少々被曝しても問題ないと思っている。ただ、自分の頭で考えられない子供達、そして何よりも生活の場が汚染されてしまった福島やチェルノブイリの人たちは、リスクを強いられているのだということを忘れてはならない。住み続けるにせよ移住するにせよ、できる限り自分でリスクが取れるように情報を提供する努力をするのが科学の唯一行えることだろう。この問題に関して安全と危険のどこかに線を引く議論だけは避けるべきだと思う。もう一つ驚くのは、この研究をフランスのアレバ社が助成していることだ。アレバ社は世界最大の原子力産業複合体だ、その会社が助成した研究が、被曝のリスクを認める論文を書いたことになる。我が国で言えば、東電や日本たばこが放射線や喫煙リスクについて認める論文を助成するようなものだ。これが大人の企業コンプライアンスと言っていいだろう。我が国の状況は把握していないが、政府任せでなく、是非企業も同じように長期のリスク算定を支援して欲しい。特に福島では、内部被曝の問題もある。30年以上誰が追跡するのか、明確な責任体制を国民に見えるようにして欲しい。

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