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7月15日:エンハンサー領域の転写:データベースを駆使して安上がりに研究を行う(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

2015年7月15日
ヒトゲノムプロジェクトから、RNAに転写され、タンパク質へと翻訳されるゲノム領域、すなわち遺伝子は高々1.5%ぐらいしかないことがわかっている。しかしENCODEや理研FANTOMプロジェクトなど、様々な組織で検出できるRNAを網羅的にリストする研究から、8割にも及ぶゲノム領域がRNAに転写されることが示され驚いた。進化を考えている立場からいうと、生命誕生時のDNAとRNAの関係の名残のように思えるが、この関係は動物ごとに独自の発展を遂げ、例えば昨年5月11日紹介したゾウリムシのような2つのゲノムを可能にする舌をまくメカニズムにまで発展している(http://aasj.jp/news/watch/1538)。遺伝子をコードしないnon-coding RNAの研究は急速に進んでいるが、多様性が大きくまだまだ研究が必要な領域だ。今日紹介するオーストラリア・サウスウェールズ大学からの論文は、脳細胞で発現しているnoncoding RNAのうち、元々は遺伝子発現を調節しているエンハンサー領域から転写されてくるRNA (eRNAと名付けている)を調べた論文でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルはCoexpression networks indentify brain region-specific enhancer RNAs in the human brain (共発現ネットワークを調べると、ヒト大脳の脳領域特異的エンハンサーRNAを特定できる)」だ。この研究で実験として行われたのは、理研のPiero Carniniciの協力を得て成人脳の様々な部位から転写開始点の網羅的ライブラリー(CAGEライブラリー)を作成し解析しただけだ。あとは、利用できるあらゆるデータベースに当たって自分で作成したeRNAライブラリーから情報を引き出そうと努力している。この研究ではまず、エンハンサー領域のデータベースを参照に、遺伝子内に存在するエンハンサー領域から転写されていると思われるeRNAをリストし、脳で発現が高い103エンハンサー領域をリストしている。次に神経疾患のゲノム解析データと比較して、リストした遺伝子が自閉症と連関する遺伝子群とオーバーラップすることを見つけ、eRNAを調べることになんらかの意味があるのではと確信したようだ。あとは、エンハンサーとそれが支配する遺伝子がセットとして明確に特定できるコンビネーションを、やはり理研FANTOMやENCODEデータベースを参照して特定し、脳の特定領域でそれぞれの遺伝子とネットワークを形成しているモヂュールを特定している。要するに、転写された遺伝子だけを調べていたのではわからなかった遺伝子同士の関係が、eRNAが反映するエンハンサー活性を参照にして見ることで明確にできたという論文だ。もちろんこの結果が自閉症の理解にどれだけつながるかは、今後の研究が必要だ。ただこの論文を読んで、研究費に困っている若手でも、アイデアさえあれば、コンピュータとデータベースを駆使してかなりのことができる時代が来たことを感じる。例えば山中さんも最初理研のES細胞のFANTOMデータベースから多能性に関わる遺伝子をリストして、リプログラムの研究を始めている。金がないとぼやくだけでなく、研究費が不足している災いを、21世紀的新分野の開拓のエネルギーとする若手が出てくることを願っている。

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