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7月20日:記憶の統合(7月15日号Science掲載論文)

2015年7月20日
昨年ノーベル賞が与えられた、オキーフさんとモザー夫妻の研究は、脳内のGPSの発見と簡単に要約されてしまっているが、この分野の論文を読んでいると方法論から理論まで、位置特定のための記憶に限らず、記憶研究一般にとって様々な革新を成し遂げた仕事である事がわかる。7月8日に紹介したやはりノーベル賞研究者エリック・カンデルさんは(http://aasj.jp/news/watch/3720)、記憶に必要な個別のニューロン内での変化を追求し続けているが、一方記憶を新しい脳回路の形成とその活動の維持として捉える方向性の研究を代表しているのがオキーフさんたちの研究だろう。今日紹介するテキサス・サウスウエスタン大学からの研究はこの場所記憶の回路の活動が脳の全体のリズムに連結されている事を示す研究で7月15日号Scienceに掲載されている。私のキャリアから見て全く異分野なので、間違った事を伝える不安はあるが、面白いと思ったので是非紹介したい論文で、タイトルは「Autoassociative dynamics in the generation of sequences of hippocampal place cells (海馬の場所ニューロンの興奮生成における自己に連結した動態)」だ。はっきり言って素人にはわかりにくいタイトルだ。そこをなんとか読み進むと、実験では例によって、ラットを2次元、1次元空間で訓練し、場所の記憶を植え付ける。この記憶は、それぞれの場所に脳神経細胞を対応付ける事で生まれるが、これは海馬に埋め込んだマルチ電極で記録する事で解読できる事はすでにオキーフ、モザー夫妻により示されている。訓練したラットを同じ空間に離して褒美のある場所を見つけさせるとき、ラットは場所の記憶を頼りに動く。したがって、実際の場所と神経細胞の興奮を対応させることができる。この研究では、動物が特定の場所で、そこに至るまで自分が動いてきた軌跡を思い出すときに見られる特有の興奮パターンとしてオキーフさんたちの発見したsharp-wave ripple(SWR)に注目して、SWRがいつどこで起こっているかを調べている。SWRは直前に動いた軌跡を呼び起こすときに起こる興奮パターンで「リプレイ・再生」と呼ばれていたが、この研究では様々な結果から、SWRを一定の軌跡を思い出すとき一般的に見られるパターンとして解釈している。その上でSWRの発生を詳しく見てみると、動きが停滞したあと、次に早くなる時に発生していること、また動き自体もスムースではなく、リズムがあることに気づいている。このリズムの時間を調べると、動きが停滞しいる時間が24ms、動いている時間が7ms、全体で30−40Hzのリズムを刻んでいることから、この行動が脳のγ波と同じであることに気づく。もともとγ波は記憶の固定や呼び起こしと関係することが知られていたので、実際の動きのリズムとγ波の関係を調べると、なんとγ波の強さのピークが、動きの止まっている時に一致することを発見した。すなわち、SWRが対応する特定の場所の回路の興奮は、それぞれ自由勝手に発生するのではなく、γ波と連動することで脳全体と関連付けられ、詳細に見ると、行動もこのリズムに従っているという結果だ。個々の回路が自由勝手に興奮すると、脳全体の統合性の維持が壊されるから、それぞれを同期させ、脳の統合性を保っていると知ると面白い。ではγ波はもともとどのように形成されるかなど私にはよくわからない点も多いが、脳でも部分と全体の生物特有因果性が形成されているのを知ると、納得する。オキーフさんたちの偉大さは、理解を深めるほどジワっとしみこんでくる、プロの偉大さのようだ。

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