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8月29日:ALS理解への一歩(8月27日号Nature掲載論文)

2015年8月29日
8月25日、ALS患者さんとの連帯のために行われた氷バケツ運動で集まった寄付により助成された研究成果についてワシントンポストが紹介した記事について、少し期待しすぎではないかと正直な評価を書いた。患者さんたちの期待に「氷水」を浴びせたのではと心配するが、研究成果を正しく伝えることは難しい。この時、TDP−43というスプライシング分子が細胞質から核に移行できないというほとんどのALSで見られる異常を「原因か結果かわからない」と述べたが、この異常が原因ではなく結果である可能性を示唆する論文が、事もあろうに同じジョンホプキンス大学から8月27日号のNatureに発表された。著者の重なりがないのでおそらく違うグループだろうが、ジョンホプキンスのALS研究のレベルは高いようだ。ただ、読んでみたところこの論文の方がずっと治療への糸口が見えてくると思ったので紹介する。タイトルは「The C9orf72 repeat expansion disrupts nucleocytoplasmic transport(C9orf72の反復配列の拡大が核・細胞質輸送を阻害する)」だ。C9orf72は脳に広く発現する分子だが、この遺伝子内に存在するGGGGCCという塩基配列の単位が反復する反復配列の数が大幅に増加する変異はALSの原因になることがわかっており、家族性のALS患者さんの4割を占めている。この変異がALSを起こすメカニズムについては2説あり、一つは異常C9orf72タンパク自体が細胞毒性があるという説で、もう一つがこの反復配列の数が増加した異常RNAは核内にとどまって細胞毒を発揮するという説だ。この研究では後者の可能性が調べられ、1)核膜孔を通した核・細胞質の輸送に関わるRanGAP分子がこの反復配列を持つRNAと結合することで機能阻害を起こすこと、2)RanGAPの発現を上昇させると反復配列の毒性を抑制できることを、ショウジョウバエの眼の発生過程を用いた系と、ヒトiPSから誘導した神経細胞で明らかにしている。この結果をもとに幾つかの実験を重ねて、異常反復配列を持ったRNAはRanGAPと結合し機能を阻害する。その結果、細胞質のRanの核内への移行を始めとする広範な核膜孔を介する輸送異常をおこり、その結果としてTDP−43の核内への輸送も抑制されることを示している。最後にこの病態を改善する方法の可能性についても調べ、C9orf72に対するsiRNAの導入や、TMPyP4という化合物がRanGAPと異常RNAの結合を阻害すること、また核から細胞質への輸送に関与するエクスポーチン1の機能を阻害することでも症状が改善することを示している。もちろん、この結果をそのまま治療法開発の可能性として捉えるわけにはいかない。この結果が現実的治療法開発につながるかが分かるには時間がかかるだろう。ただ、この研究は家族性のALSについての研究だが、他の原因により核と細胞質の輸送が阻害されることが多くのALSの背景にある可能性も示唆している。特にTDP−43の核内輸送の異常がほとんどの患者さんに見られることはこの可能性を強く示唆している。今後重要な研究対象になるだろう。今週紹介した2編の論文は、研究は競争しながら行われても、それぞれが連関してコンセンサスへと進むことを示している。論文を紹介するときは、その背景をしっかり踏まえて報道することが重要だが、そんな力を日本のメディアがつける日はいつ来るのだろうか。

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