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9月1日:ホヤから脊椎動物への進化(8月27日号Nature掲載論文)

2015年9月1日
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進化の過程で体の体制が変わるためには、様々な新しい構造が生まれることが必要だ。もちろんその背景には、先行するゲノムの配列や構造の変化がなければならない。例えばこのホームページでも、魚のヒレが足に変わっていく過程についてのポリプテルス(http://aasj.jp/news/watch/2107)を用いた研究を紹介した。ヒレから四肢への進化からわかるのは、全く新しい構造にもその元となる構造や細胞集団が存在し、発生過程で関わる分子の多くも共通なことだ。このような起源構造の発生過程を新しい構造の発生過程と比べ、その背景にあるゲノム変化を調べる順序で進化発生学の研究は進められる。さて、脊椎動物にもっとも近い動物はホヤなどが属する脊索動物だ。ゲノムについて言うと、脊索動物から脊椎動物で2回の全ゲノムレベルの重複が起こっている。一方、構造レベルでは、例えば閉鎖血管系が進化なども挙げられるが、ほとんどの進化発生学者が興味を持っているのは神経管から発生する神経堤細胞と、感覚器官の原基になるプラコードの発生だ。今日紹介する米国・フランス・日本の研究所が共同で発表した論文は脊索動物にも脊椎動物と分化過程が類似したプラコードに相同する構造が存在することを丹念に示した研究で8月27日号のNatureに掲載されている。タイトルは「The pre-vertebrate origins of neurogenic placodes(脊椎動物以前の神経原性プラコード)」だ。元々我が国は脊索動物の研究をリードしており、脊索動物にプラコードが存在する可能性については京大の佐藤さんたちも論文を発表していた。基本的にこの論文は、これまでの研究の延長と言えるが、最終的にプラコードの細胞に由来する神経細胞の運命を最後まで追跡したという点でNatureに掲載されることになったと思う。後は極めてオーソドックスな発生学の研究なので詳細は全部省くが、脊索動物にもプラコード相同の構造が発生し、発現遺伝子や、誘導に必要なシグナルも共通することをまず示している。その上で、このプラコードを形成する前駆細胞が、性ホルモンを分泌し、化学物質を感知する両方の性質を持った繊毛を持つ神経細胞へと分化することを新しく発見した。脊椎動物では、プラコードから分化する神経細胞は、ホルモン分泌性の脳下垂体神経と、匂いを感知する嗅細胞へと分かれていることから、今回新しく脊索動物で定義されたホルモン分泌・感覚細胞は、機能が分化する以前の起源細胞に当たると結論している。すなわち、元々一つの細胞に統一されていたホルモン分泌と感覚機能が脊椎動物では機能が分離した回路へと進化することで、より複雑な機能を獲得したのではないかと考察している。わかりやすい面白い論文だが、この結果をゲノム変化と対応させるというもっとも重要な研究が残っている。論文を見ると、鍵になる遺伝子や、その調節領域がわかっていると思うので、この研究を手掛かりに、大きな挑戦に挑んで欲しいと思う。ホヤゲノムでも日本はリーダーシップを発揮してきた。この蓄積を味わいつくせる若手はもっとも幸運な世代といえるだろう。頑張って欲しい。

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