AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月15日:飛行中の急病に対する医師の心得(9月3日号The New England Journal of Medicine掲載総説論文)

9月15日:飛行中の急病に対する医師の心得(9月3日号The New England Journal of Medicine掲載総説論文)

2015年9月15日
The New England Journal of MedicineはThe Lancetと並ぶ医師向けのトップジャーナルで、医学生から臨床医、さらには医学研究者まで多くの読者を持っている。したがって、研究論文だけでなく、医師に必要な様々な知識が得られるよう編集が行われている。今日紹介するのは自分が搭乗している飛行機内で急病人が出たとき医師としてどうするのかについての心得をジョージタウン大学救急医学の先生に依頼した総説で、知っているようで知らない様々なことを学べるいい総説だ。タイトルは「In-flight medical emergencies during comm.ercial travel (商用旅行中の機内での急病)」だ。まだ医師として働いていた頃、一度呼びかけに応えて処置をしたことがある。そのときは私自身も倒れたくなるような悪天候で、「私も怖いですよ」と落ち着いてもらって過呼吸は収まり、ヤブ加減がばれずにことなきを得たが、訓練できていないと簡単な救急処置も不安だ。この総説ではまず法的な問題から始めている。アメリカでは医師免許を持っていても呼びかけに応じる法的義務はないが、欧州やオーストラリアは義務になっているようだ。もちろんアメリカでも職業倫理に基づいて呼びかけに応じる医師は多いが、そのときの医師の行為を守る法律があり、1)呼びかけに応じる義務はないこと、2)あくまでパイロットが最高責任者であり、緊急着陸などは医師が決めれないこと、3)適切な機器のない中での医療行為の結果は問われないこと、などが決まっているようだ。また、実際飛行機にはどのような医療器具が整っているかも書かれている。狭心症発作などには対応できるようになっているが、基本的にはバイタルを確保するためだけの機材しかないようだ。その上で、呼びかけに応じたら何をするかが書かれている。1)自己紹介。(今の私なら医師免許はあっても30年以上医師をしておらず何も知らないといったところか)、2)診察していいか聞く、3)医療キットを持ってくるように頼む、特に除細動器が必要な場合はそれが先、4)通訳をお願いする、5)病歴を聞く、6)わかった点だけについて処置する、7)手にあまると思えば緊急着陸をお願いする、8)必要なら地上医療スタッフと話し合う、9)記録を残す。私の場合、どれもできていなかったことに驚く。最後に、機内で出会う病気についての簡単な説明がある。まず心停止だが、出会う確率は0.3%と極めて稀だが、機内での死亡の86%を占めるようだ。この場合は蘇生しても、必ず緊急着陸を要請したほうがいい。同じく急性の冠動脈症状だが、これは多く8%で、多くは病歴がある。ニトログリセリンは常備されているが、心筋梗塞が疑われれば緊急着陸を要請すべき。脳血管発作は2%だが、飛行中は酸素吸入はできるだけ濃度を下げて行う必要があるようだ。一方、低血糖に対しては検査機器はないが、乗客に測定機器を持っている患者さんがいる場合もあるので聞いたほうがいいようだ。精神的なストレスによる様々な症状は多いが(私のd出会ったのもこれだが)精神安定剤などは常備されていない。予想外なのは、低気圧やストレスで失神する率がなんと37%に達することだ。これを知っておけば、まず横になって落ち着かせるところから冷静に始めることもできるだろう。あと多いのは当然外傷で、銃創などはないので対応は難しくないとのことだ。現役の医師の皆さんにとっては必読総説だろう。医療を受ける側も、ある程度この程度のことを知っておくことで、手当てを受けるときに不安は軽減されるのではないだろうか。しかし同じような法律は我が国にもあるのだろうか。今はおそらく呼ばれても出て行かないと思うが、欧州だと行かないことも罪、誤診してしまっても罪(この点は実際には資料がない)なら、厚労省に医師免許返上を申請したほうが良さそうだ。しかしこの返上も可能だろうか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*