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10月7日:糖尿病から起こる腸症状の原因(10月1日号Cell Stem Cell掲載論文)

2015年10月7日
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膵臓のβ細胞が自己免疫反応で消失してしまう1型糖尿病の患者さんの多くに、腹部膨満、過敏性腸症候群などの腸疾患が併発することが知られている。実際には1型に限らず、糖尿病で高血糖が長期に続くことによる合併症で、糖尿病性腸疾患と名付けられている。糖尿病による合併症のほとんどは血管障害がその背景にあるとされており、糖尿病性腸疾患も同じように理解されていた。ところが今日紹介するハーバード大学からの論文は糖尿病性腸疾患が大腸の幹細胞の機能不全によって引き起こされることを示した研究で10月1日号Cell Stem Cellに掲載された。タイトルは「Circulating IGF-I and IGFBP3 levels control human colonic stem cell function and are disrupted in diabetic enteropathy(血中のIGF-1とIGFBP-3はヒト大腸の幹細胞機能を調節しており糖尿性腸疾患ではこの機能が障害される)」だ。タイトルにあるIGFはインシュリン様増殖因子のことで様々な細胞の増殖を誘導する。一方、IGFBP-3はIGFと結合してIGFの増殖作用を調節している。まず驚くのは、このグループは患者さんの大腸の幹細胞機能を、慶應の佐藤さんとオランダのCleversらが開発した試験管内での腸上皮オルガノイド形成法を用いて調べている点だ。恐らく研究者にとっても患者さんにとっても大変な実験だったと思う。論文ではまず、糖尿病性腸疾患の患者さんの大腸は組織学的に上皮形成が障害されており、また幹細胞が減少していることに気がついている。そしてこの原因が血管障害ではなく、細胞増殖に関わるIGF-1とIGFBP-3のバランスが乱れることが原因であるという可能性にたどり着く。すなわち、患者さんではIGF-1が低く、IGFBP-3が上昇している。あとはこの分子の大腸幹細胞への作用、高血糖との関係、これを標的とした治療可能性などについて様々な実験を行い、次の様な結論に達している。高血糖は食物摂取を抑えるためのシグナルとなって肝臓のIGFBP-3産生と分泌を誘導する。分泌されたIGFBP-3はIGF-1と結合して作用を抑え、幹細胞の増殖を抑える。さらにこの研究では、フリーのIGFBP-3がTMEM219と呼ばれる受容体に直接結合して幹細胞の細胞死を誘導することを発見している。この様にIGFBP-3の過剰生産は幹細胞抑制のための2重効果を持っている。IGFBP-3異常分泌は膵臓移植を受けた患者さんでは完全に正常化し、また幹細胞の活性も正常に戻る。最後に、IGFBP-3分子のTMEM219への結合を阻害すると、幹細胞が正常化することをヒト大腸幹細胞培養およびマウスモデルで確認している。糖尿病の異常は血管だと決めつけず、新しい可能性を追求、証明した面白い研究だ。特に、今回明らかになったシグナルを標的に薬剤が開発され、1型糖尿病の患者さんが合併症から解放されることを期待したい。

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