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10月9日:記憶の想起の神経回路:進展する光遺伝学(10月5日号Nature掲載論文)

2015年10月9日
このホームページで何度も紹介したが、クリスパー/CASによる遺伝子編集法と並び生命科学、特に脳研究を大きく変えているのがKarl Deisserothらによる光遺伝学だろう。今の所利用が遺伝子改変が行いやすいマウスにとどまっているが、それでもこれまで明確にできなかった様々な問題を、快刀乱麻を断つごとく解決している。しかし驚くのはこのグループが目的に合わせて新しい方法をまだまだ開発している点だ。今日紹介するスタンフォード大学Karl Deisserothたちの論文は記憶想起に関わる前頭前野の役割を明らかにした論文で10月5日号のNatureに掲載されている。タイトルは「Projections from neocortex mediate top-down control of memory retrieval(新皮質からの投射が記憶想起をトップダウンに調節している)」だ。それぞれの記憶に個別の神経回路単位が対応しているのか、またそれを検索して想起するとき海馬以外の領域が関わるかについては実験的に明確になっているわけではなかったようだ。この研究はこの問題に絞って、自ら開発した様々な方法を駆使して挑戦している。まず、海馬と神経回路を形成する領域を、蛍光トレーサーを使った方法で調べ、前頭前野から神経投射が存在することを明らかにする。次に、この回路がつながっているかどうかを、光で興奮するチャンネル分子を導入した神経の入力が、相手型の神経興奮出力として観察できるかを調べ、前頭前野から海馬への投射があることを確認している。次に、この回路が記憶の想起に関連するか調べるため、まずマウスのコンテクスト記憶を電気ショックと光で誘導し、恐怖行動を前頭前野の光刺激で誘導できるか調べ、前頭前野の光刺激でマウスを立ちすくませられることを明らかにした。すなわち、前頭前野からの投射が記憶を検索想起するときのリード役になっていることを明らかにした。これだけでも十分面白いのだが、この論文ではさらに前頭前野から呼び起こせる一つの記憶単位にどれほど多くの細胞が関わるのか調べている。この目的のため、興奮により神経が蛍光を発するようにしたマウスの海馬神経を継時的に観察して記憶想起時に興奮する神経を調べ、記憶を想起するときはほんの一部が強く反応する一方、他の細胞の興奮は抑制して、特定の記憶回路を際立たせていることを示している。最後に恐怖行動誘導刺激の代わりに、前頭前野からの投射を直接活性化したときの海馬の反応を調べている。この実験のために、長い神経投射でも十分光で刺激できる光反応性チャンネルを新たに設計して使っているのは、さすがこのグループならではと思わせる実験だ。そして、前頭前野刺激により海馬神経細胞の2割が活性化される回路のなかにリクルートされることを明らかにした。理解が間違っていなければ、前頭前野からの刺激で一定の数の記憶回路単位がリクルートされ検索され、その中から少数の細胞からなる目的の記憶回路単位が選択されるようだ。このようにマウスの実験だけでも面白いが、将来遺伝子編集技術を使って大動物の光遺伝学が行われるようになると、脳研究は新たな段階に入るように思う。この論文では今後克服すべき技術的課題が最後に明示され、この分野をリードするという意気込みが感じられた。今後が楽しみだ。

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