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10月14日:神経性食思不振症の脳回路(10月12日号Nature Neuroscience掲載論文)

2015年10月14日
以前も述べたが、熊本大学から京大に移ってすぐに秘書に来ていただいたMさんは面接の時から神経性食思不振症であることがわかる方だった。それでも、自分も医者だからなんとかなるのではという甘い考えで、素晴らしい英語能力に惹かれて採用した。期待通り、秘書としては素晴らしい方だったが、私の生半可な知識では病気の方は如何ともし難かった。よくやってくれたお礼にと食事に誘ってスケジュールを決めるとその日は必ず休まれることに気がつき、それからは誘うのをやめた。結局体力の限界が来て退職された。その後入院治療を続けられたが、回復せず帰らぬ人となられた。今も私のところで働いたせいではないかと気に病んでいるし、またこの病気についての論文は特に気になる。今日紹介するニューヨーク大学からの論文は素人の私にもわかりやすい論文で神経性食思不振の患者さんが食べ物を選ぶときに活動する特徴的な脳回路についての研究で、10月12日号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Neural mechanisms supporting maladaptive food choices in anorexia nervosa(神経性食思不振症の異常な食物選択の背景にある神経メカニズム)」だ。これまでの研究から、この病気の患者さんは治療として食生活を変えている途中でも、食べ物の好みを聞くと例外なく低カロリーの食品を選ぶことがわかっていたようだ。この研究でもまず患者さんに、健康状態や、食べ物の好みなどを聞いている。ただ、選んだ食品の中からランダムに選んで必ず食べてもらうようにすることで、正常を装うことを防ぐ工夫をしている。さらに、次の日ビュッフェ形式のランチを食べてもらってその時のカロリー量を計算することで、この選択が実際の食行動と相関することを確認している。驚くことに、このランチで1人は食べられずにリタイアし、3人の患者さんは過食への欲望が抑えられないと告白したようだ。この病気はそれほど大変なのだ。   これまでも同じようなテストが行われていたようだが、今回の研究は実際の食品選択行動まで確認している点が新しいようだ。この確認の後、MRIを用いて患者さんが食物選択をする際、脳のどの領域に正常との差が見られるか調べて、線条体の背側部が患者さんで強く興奮することを見出している。同じ線状体でも、腹側は正常と変わらない。またこの活動は、食品を選択する時のみに強く現れ、食べ物の好みについての質問に答えているときには正常と差がない。もともと線条体は行動の選択に関わる領域として知られているので、次に患者さんが低カロリー食品に反応する時、どの回路からの刺激が線条体を興奮させるか調べ、大脳前頭葉の前方・腹側・側方と連結する回路が関わることを突き止めている。すなわち患者さんでは、低カロリー食品を見た時結合が強まり、高カロリー食品を見た時結合が弱まる。普通の人は逆に高カロリー食品を見た時にこの結合は強まる。更に、低カロリー食品を見た時の結合の強さが、実際にビュッフェで選ぶ食品のカロリー量と逆相関を示すことも明らかにしている。結果はこれだけで、この回路の結合性の強さと摂取カロリー量が逆相関するなら、客観的な診断指標として使う可能性はあるとしても、ではこの病気に対してどうすればいいのかヒントはなかった。ようやく出口がわかったところだろう。次は前頭葉がなぜ高カロリー食品を忌避するのか、そのメカニズムを明らかにすることが必要だと思う。とはいえ、少しづつでも研究が進展していることを確認できる論文だった。

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