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11月22日:アメリカで早期膵臓癌の予後を決める社会的因子( 11月18日号JAMA Surgery掲載論文)

2015年11月22日
膵臓ガンは現在も外科手術以外にほとんど治療する手段のない腫瘍で、全体で5年生存率が8%を切る。ただがんセンターの統計を見ると、リンパ節に転移せず大きさも2cm以下のステージ1では35%、同じ2cm以下でも転移が見つかる、あるいは転移がなくても大きさが2cmを超えるステージIIの場合は16%になっている。また、日本膵臓学会からの統計では、ステージI/IIでは5年生存率が44%になっており、手術が可能なステージについての我が国の統計は、医学国際誌で見かける数字と比べるとかなり良いという印象がある。これと比較する良い統計がないかと見ていたら、今日紹介するボストン健康管理室からの論文に行き当たった。タイトルは「Association of socioeconomic variables with resection, stage, and survival in patients with early stage pancreatic cancer(早期膵ガン患者の手術率、ステージ、生存率と社会・経済状態の関連)」で、11月18日号のJAMA Surgery に掲載されている。この研究の目的は、アメリカ全土の早期膵ガンの統計をまとめ直し、人種、健康保険を含む様々な社会・経済状況別に生存率を調べ、政策的に治療成績をあげる手段がないか調べることだ。しかし、アメリカで2004-2011年に発生した膵臓ガン患者のうち、転移がないと診断された17000人を超える患者さんの統計で、その意味で我が国の治療成績との比較対象としては十分だ。転移のない膵ガンで手術を行った場合の米国の5年生存率はグラフから目算すると大体20%で、手術を受けなかった場合が5%以下であるのと比べるとはるかに良い(論文では半数の人が生きている時点で計算しおり、手術した場合21ヶ月、手術をしない場合6ヶ月)。また、手術に放射線を組み合わせた方が予後の良いこともわかる。そのまま比較は難しいが、この論文に見るアメリカの数字は日本膵臓学会の数字と比べるとずいぶん悪い。これを見ると、我が国では早期発見さえできれば、治療成績は極めて良いと期待できるのだが、本当にそう思って良いのかは実は統計からだけではわからない。この研究ではアメリカを4地域に分け、南東部は他の地域と比べると生存率が低いことをはじき出している。すなわち、予後は、ガン自体の性状に加え、地域の医療水準、様々な社会・経済的要因が合わさった結果になる。この論文では、健康保険のグレードは言うまでもなく、人種、独身か既婚かなどの社会経済状態、および地域の医療状況など詳しく調べられ、予後との関係が調べられている。実は、自分が病気になった時の治療期待度を知るためには、このような詳しい統計が必要になる。しかしこのような様々な状態を把握するための全国的なガン登録は我が国でまだ始まっておらず、ようやく来年から始まる。確かに論文からだけではアメリカの医療はひどいと思ってしまうが、このようにガン登録後進国とも言える我が国の状況を考えると、学会から出された統計がそのまま他の国と比べられないのが問題だ。ガン登録は来年1月から始まる。一刻も早くガンの予後を決める様々な社会的要因について、全国統計に基づく研究が我が国から生まれることを期待したい。

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