11月30日:未熟児壊死性腸炎へのビフィズス菌の効果(11月25日号The Lancet掲載論文)
2015年11月30日
新生児医療が大きく進歩し、早産児の命を助けることが可能になってきた今も、壊死性腸炎は重症化すると外科的処置以外に治療法のない死亡率が15−30%に達する病気だ。これに対する期待の治療法として、最近いわゆる「善玉菌」を投与するプロバイオ治療が登場している。特にこれまでの研究をまとめたコクラン財団のメタアナリシスもこの可能性を支持しており、積極的に治療に取り入れるべきだと結論している。
今日紹介するロンドン大学医学部からの論文は、23−30週で生まれた早産児を2群に分けて、出産後48時間以内に我が国のヤクルトが準備したビフィズス菌と偽薬を毎日腸内に直接投与し、壊死性腸炎と敗血症を指標としてその効果を検証する研究で、11月25日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「Bifidobacterium breve BBG-001 in very preterm infants: a randomised controlled phase3 trial(早産児のBifidobacterium breve BBG-001治療:第3相無作為化治験)」だ。研究では2010年7月から2013年7月までの3年間にロンドン市内24の病院で23−30週で生まれた1300人余りの早産児を2群に分け、凍結乾燥したビフィズス菌を、非投与群と比べた大規模研究だ。この研究は英国衛生研究所とともに、我が国のヤクルトが助成を行っている。さて結果だが、壊死性腸炎は投与群で9%、非投与群で10%、敗血症は投与群で11%、非投与群で12%、院内での死亡率は投与群で8%、非投与群で9%と、基本的にはビフィズス菌の効果がなかった。ただ、ビフィズス菌自体が早産児に悪影響を及ぼすこともない。今回の研究では投与したビフィズス菌の定着をきちっと調べており、早産児では44%と低いことが示されている。より定着を高めた上での研究も必要だろう。またこの研究はビフィズス菌のみの投与で、2種類のビフィズス菌とストレプトコッカス一株の3株混合を投与するオーストラリアの介入研究では、敗血症の予防に効果が見られると報告されている。もともと腸内細菌叢が様々な菌のバランスの上に成立していることを考えると、一株のみ投与する方法には限界があるのかもしれない。この論文はいわばネガティブデータの論文だが、このような困難な治験をしたヤクルトには拍手を送りたい。食品とのボーダーにある保健機能食品はわが国だけでなくほとんどの国で効果検証についての規制がなく、基本的にはマーケティングの領域になっている。そんな中で、外国とはいえ、プロバイオ製品の科学的検証を目指す態度は、ぜひ他社も見習って欲しいと思う。