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12月2日:ガン免疫を成立させるための治療法の開発(11月25日Science Translational Medicine掲載論文)

2015年12月2日
手術のできない進行ガンの根治のために現在考えられるのは免疫療法しかないのではないかと思える今日この頃だが、現在は免疫チェックポイント阻害に注目が集まって、肝心の免疫を成立させる研究はあまり報道されていない。免疫刺激を持続的に維持しないとチェックポイント治療も無力で、逆にガンの方をよりステルス型に変えてしまう。これまでは免疫刺激療法としてはワクチンや樹状細胞治療が存在するが、今日紹介するバーゼル大学からの論文は、毒素をつけた抗体を用いてガンを殺し、その場に樹状細胞やT細胞を引きつけることで免疫を成立させ、それにチェックポイント治療を組み合わせるという理論的な枠組みを確かめる研究で、11月25日号のScience Translational Medicineに掲載されている。タイトルは「Trastuzmab ematasine(T-DM1) renders HER2+ breast cancer highly susceptible to CTLA-4/PD-1 blockade (トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)はHER2陽性乳がんでCTLA4/PD-1治療の効力を高める)」だ。T—DM1はロッシュが開発し、進行乳がんに現在使われている薬剤で、乳ガンが発現しているHER2に対す抗体にエムタンシンという毒素を結合させた治療薬だ。わざわざ毒素をつけなくとも、HER2に対する抗体は細胞障害性があるはずで、なぜ毒素をつけたほうが延命効果があるのかを調べる過程で、エムタンシンが障害されたガン細胞を処理する樹状細胞活性を上昇させる効果があることに気がついた。抗体のみの投与、エムタンシン結合抗体T-DM1の投与患者の組織を比べると、確かにTDM-1投与群の組織では、樹状細胞とともにT細胞の浸潤が高まっている。また、T細胞を殺す操作をすると、毒素をつけた効果がなくなる。期待通り、 T-DM1がガンを殺すとともに免疫刺激を誘導していることを示している。そこで実際に免疫刺激が成立しているか調べる目的で、マウスのモデル実験系を用いて、T-DM1投与と同時に免疫チェックポイントCTLA-4とPD-1両方を抗体で抑制すると、ほとんどのマウスで完全に腫瘍を消失させることに成功し、9割以上のマウスで観察した200日は再発がないという画期的な結果が得られている。あとはなぜ免疫がどう成立しているか調べているが、この毒素のおかげでガン周囲のマクロファージのPD-L1が上昇し、様々な炎症誘導性のサイトカインが上昇し、さらに都合のいいことにガンの増殖を助けるVEGFやM-CSFは抑制される。あまりに都合良すぎて目を疑うが、実験モデルでのガン抑制効果には嘘はないだろうから、納得できる。ただ、このフレームワークはおそらくガン免疫に関わる人なら誰もが考えていたはずで、このグループがエムタンシンを用いた点がうまくいった理由だとおもう。私にとって最も面白かったのは、この治療の組み合わせではガンに浸潤するTreg (昨日のホームページを参照してください。http://aasj.jp/news/watch/4492)はそのまま残っているという発見で、ガン免疫抑制にあまりTregは関わらないという結論だ。チェックポイント治療が強い自己免疫反応を起こすことが最も重大な副作用になるが、Tregが残ることで自己免疫反応を抑えながら、ガン免疫だけを高めることができれば、これは一石三鳥に四鳥にもなる。理論的だし、ガンの根治への期待が持てる結果だと思う。

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