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12月23日:DNAメチル化による転写調節(Natureオンライン版掲載論文)

2015年12月23日
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「DNA メチル化による転写調節」などとタイトルをつけると、何を今更と思う人も多いのではないだろうか。確かにDNAメチル化が染色体構造を閉じて、転写因子の結合を阻害し、遺伝子発現を抑制すると教科書にも書かれている。しかし、この話がはっきりしているのは、生殖細胞と体細胞の区別、X染色体不活化、インプリンティング、外来遺伝子不活化などの過程でメチル化の標的になる遺伝子の話で、発生や分化に関わる普通の遺伝子の発現調節にDNAメチル化がどのように関わるかについては、実はわかっていないことが多かった。今日紹介するスイス・バーゼルにあるミーシャー研究所からの論文は、マウスES細胞の特性を生かしてこの問題を解明した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Competition between DNA methylation and transcription factors determines binding of NRF1(DNAメチル化と転写因子の競合がNRF1の結合性を決める)」だ。この研究ではメチル化に関わる酵素が完全に欠損したマウスES細胞が使われている。体細胞はDNAメチル化ができなくなると死んでしまうが、ES細胞だけはDNAメチル化が欠損してもなんとか増殖を続ける。この特徴を活かすことで、DNAメチル化によって結合が影響される転写因子を特定することができる。研究ではまずES細胞で転写因子が結合できるよう開かれたゲノム領域を網羅的に比べている。全体的にみると、DNAメチル化が起こらなくとも転写活性領域の大きな変化は見つからないが、それでもメチル化がない時だけ活性化される領域、またその逆も特定することができる。すなわち、メチル化の有無で転写因子が結合したり、結合が阻害される部位、すなわちメチル化が転写調節に関わる領域がはっきり存在することになる。DNAメチル化が阻害されると転写が活性化される領域を詳しく見ると、転写が開始される場所から離れたメチル化の標的になるCpG配列の密度が低い場所が多いことがわかる。これまでメチル化による転写阻害がはっきりしている遺伝子のほとんどはCpG密度が高いので、これとは明らかに違う場所だ。このメチル化に影響される領域の配列から、これに結合する転写因子をリストし、このリストからNRF1分子を選んで後の研究を進めている。ここまでくると、あとは粛々と転写因子の結合とメチル化を厳密に調べればいい。結果は期待通りで、様々な系で調べて、NRF1の結合が結合部位のメチル化により阻害的に調節されていることを明らかにしている。ES細胞の培養条件を変えたり分化を誘導してNRF1結合部位を調べると、細胞分化状態によりメチル化が制御され、その結果NRF1の結合が決められることが明らかになった。すなわち、分化や脱分化で結合部位のメチル化が変化し、遺伝子の転写が調節を受けることがはっきりした例が見つかったことになる。最後にNRF1結合部位のメチル化を調節するメカニズムについて調べ、CTCFや RESTのような遺伝子領域の染色体構造を調節する分子が間接的に関わるメチル化・脱メチル化機構が関与することを明らかにしている。このの研究で選ばれたNRF1はパイオニア因子と呼ばれ、DNAに結合すると染色体構造を開く力がある。このような分子を排除して、発生や分化の恒常性を保つというのは解りやすい。今後ES細胞の分化やリプログラミング過程を用いて、このような現象の解析がさらに進むだろう。その結果、多能生幹細胞を介さず、自由にエピゲノムを変化させて、欲しい細胞を誘導する時代が到来すると予想できる。これまで目にした中では、DNAメチル化の役割を理解させてくれたいい研究だと思う。

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