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1月6日CRISPR/Cas9を用いた筋ジストロフィーの遺伝子治療(Scienceオンライン版掲載論文)

2016年1月6日
昨年のノーベル賞はCRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集法の開発に与えられるのではと予言し外れたが、今年も同じ予言を続ける。それほどこのテクノロジーは生命科学全領域に広がっている。最も期待されている分野が遺伝子治療分野への応用で、この方法のおかげで患者さん自身の遺伝子の機能を回復させる治療がより現実に近くなった。これを裏付けるように、今年最初にScienceにアップデートされてきた論文の中に、筋ジストロフィーモデルマウスを、CRISPR/Cas9を用いて治療することが可能であることを示す論文が2編見つかった。一編はデューク大学、もう一編はハーバード大学からの論文だ。両方共ほぼ同じ内容なので、ここではデユーク大学からの論文だけを紹介しておく。タイトルは「In vivo genome editing improves muscle function in a mouse model of Duchenne muscular dystrophy (デュシャンヌ型筋ジストロフィー・モデルマウスの筋肉機能を遺伝子編集を用いて改善する)」だ。筋ジストロフィーはX染色体にあるディストロフィン遺伝子の突然変異で、正常なたんぱく質が形成されないために、筋肉細胞が進行的に変性する。ディストロフィンは巨大な分子で79個のエクソンからなる遺伝子によってコードされている。ほとんどの患者さんは男性で(伴性遺伝)、新生児期から遺伝子診断が可能で、突然変異を持つX染色体が1本しかないため、遺伝子編集技術を使う格好の対象だ。さらに多くの突然変異でたんぱく質の翻訳が途中で止まって機能のない分子ができるが、変異のあるエクソン自体を完全に取り除いた遺伝子からできるディストロフィンも機能を持っていることがわかっている。すなわち、分子の場所によっては少々欠損しても問題ない。この論文では、マウスディストロフィンの23番目のエクソンに突然変異を持つモデルマウスを用いて、この23番目のエクソンを全て切り出してしまって治療が可能かが検討している。研究では、CRISPR/Cas9と22、23番目のイントロン配列に対応する2種類のガイドRNAを別々のアデノウイルスベクターに組み込んで、この混合物を局所、腹腔、静脈ルートに注射し、どのぐらいの効率で機能的遺伝子を復活させられるかを調べている。結果は明快で、うまくいくと60%以上の筋肉細胞の遺伝子の機能を回復させられる。特に、新生児期に腹腔注射することで、生命に関わる横隔膜筋のジストロフィン機能を回復させられるし、静脈注射で心臓のディストロフィンも回復できる。さらにハーバード大学からの論文では、筋肉の自己再生に関わる筋肉幹細胞もこの方法でディストロフィンの機能を回復させることができ、長期にわたって筋肉機能回復が期待できることも示されている。予想されていたとはいえ画期的な結果だと思う。   エクソンを除くという今回の方法で治療可能な筋ジストロフィーは50%以上に達すると考えられ、臨床応用が加速すること間違いない。次は、突然変異を完全に元に戻す方法の開発が進むだろう。生殖細胞改変については議論の多いこの技術だが、多くの患者さんを救う技術であることも明らかだ。期待して見守ろう。

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