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1月24日:形の違いの遺伝的背景(1月14日Cell掲載論文)

2016年1月24日
   極論すればゲノムを理解するということは、体の構造の大枠がゲノム情報を読めばわかるということだ。もちろん骨格にしても顔や体形にしても、ゲノムで決まる大枠の上にエピジェネティックな変化がかぶさっているが、他の形質と比べるとゲノムの影響は大きい。これは双生児を見れば理解できる。とは言っても、形の差を決めているのは遺伝子の発現調節領域の差で、特定が難しいが、これに挑戦するのがゲノム研究の醍醐味でもある。今日紹介するスタンフォード大学からの論文はその意味では「してやった」と著者らも楽しんだはずだ。タイトルは「Evolving new skeletal traits by cis-regulatory changes in bone morphogenetic proteins (BMPタンパク質の発現調節領域の変化により新しい骨格の特徴が進化する)」だ。
  この研究では、トゲウオのゲノムを比較して外骨格の形や大きさの違いを決める領域の探索を行っている。知らなかったが、外骨格が大きく変化していてもトゲウオは人工授精で交配することが可能で、まだ完全に種分化が進んでいないため、それぞれのゲノムの差は小さく、また交配を用いた古典的遺伝学が使える利点がある。言って見れば私たちとネアンデルタールの関係みたいなものだ。身体中が外骨格の太平洋に生息するトゲウオと、湖に住むトゲウオゲノムを比較して、外骨格の長さと幅と相関するゲノム領域を全部で28領域特定している。今後ぞれぞれの領域の形態への影響が調べられると思うが、この論文では、2つの領域に多型が見られたBMPファミリー分子の一つGDF6遺伝子に注目して研究を進めている。まず外骨格が小さい淡水型ではGDF6の発現が上昇していることを交配実験も使って明らかにし、これらの領域によりGDF6発現が調節されていることを確認した後、蛍光レポーター遺伝子を用いた遺伝子操作を用いて、淡水トゲウオのGDF6調節領域が外骨格領域で高い発現を示すことを明らかにした。淡水トゲウオのこの領域にはLINEと呼ばれるトランスポゾンが飛び込んでおり、これがエンハンサー活性を示すと結論している。最後に、太平洋トゲウオのGDF6発現パターンを淡水型に変えると、形質の変化が見られるか調べ、期待通り外骨格が小さくなることを示している。すなわち、進化の過程でGDF6がたまたま外骨格領域で発現する様になったトゲウオが、カルシウムの少ない淡水に適応したという話になる。種分化の中間過程にあるトゲウオという面白い実験系を磨き上げてきたグループでしかできない研究だ。
    これでも十分面白い話だが、著者らはGDF6エンハンサーの一部が人間でだけ欠損していることを発見する。この論文ではチンパンジーと人間のエンハンサー活性の違いについてもマウストランスジェニックマウスを用いて調べ、チンパンジーの調節領域が足の5番目の指での発現を誘導することを示している。マウスでGDF6がなくなると指が短くなり、頭蓋も縮まるという結果と合わせて、おそらくGDF6調節領域の変化が木登りに向いた猿の後ろ足の長い指が人間になって短くなる過程を代表していると議論している。
   進化発生学の伝統を感じさせる立派な力作で、楽しんで読むことができた。

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