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2月7日:MECP2重複症モデルザルの開発(2月4日号Nature掲載論文)

2016年2月7日
   安定な遺伝子発現パターンを調節する染色体の構築は、DNAのメチル化と、DNAと結合しているヒストンの修飾で行われていることは何度も紹介してきた。この染色体構築パターンをゲノム全体にわたって調べることが可能になり、この制御の破綻と病気の関係も徐々に明らかにされ始めている。特に研究が進んでいるのがメチル化されたDNAに結合する分子MECP2の突然変異や発現異常についての研究で、この分子の発現が正常レベルより多くても、少なくても様々な異常が出ることがわかっている。どちらの場合も、複雑な神経症状を示し、特に海馬、扁桃体、視床など記憶や感情に関わる脳領域の染色体構築が変化することがわかってきた。症状は複雑だが、変化を受ける遺伝子を一つ一つ明らかにし、その機能を薬剤により正常化させることで、発病後も症状を抑える方法が開発できるのではと、研究が進んでいる。特に、MECP2遺伝子が重複して発現量が上昇しているモデルマウスで、発現量を正常に戻すと、発病後であっても症状の改善が見られることを示す論文が昨年12月Nature(Sztainberg et al, Nature 528, 123)に発表され、遺伝子治療も視野に入ってきた。しかし、病気のモデル動物として現在利用できるのはマウスしかなく、大脳の複雑な機能を追跡する目的には不十分だった。このため霊長類をモデル動物として使えないか模索が続いていた。
  今日紹介する上海科学アカデミーからの論文はMECP2重複症に相当するモデルをカニクイザルにMECP2遺伝子を導入して作成したという研究で2月4日号のNatureに報告された。タイトルは「Autism-like behaviours and gremline transmission in transgenic monkeys overexpressing MeCP2(遺伝するMeCP2を過剰発現により自閉症様症状を示すカニクイザルの開発)」だ。
  この研究ではストレートに外来遺伝子を、遺伝子導入効率の高いレンチウイルスベクターを用いて導入し、脳内のMeCP2の発現を上昇させる方法を用いている。簡単そうだが、今でもトランスジェニック猿の作成は簡単でない様だ。いずれにせよ、様々な症状を示す系統が作成されている。一部の系統では、成長後の様々な時期に、急に体重減少と大脳体積の減少をきたす強い症状がみられている。一方、全身症状は軽度で神経症状を示す系統も作成している。詳細は全て省くが、神経学的には、同じ行動を繰り返し、常に不安感情を示し、他の個体との社会行動が低下するヒトの自閉症に似た症状を示すモデルができたことは重要だ。すなわち、MeCP2の発現により誘導される遺伝子発現異常と症状を送還させることができる。この研究でも、変化の持つ意義の解析はまだまだだが、MeCP2の発現上昇によって変化する遺伝子のリストが出来上がっている。今後、MeCP2の発現量、染色体の構造パターンの解析を進めて、神経症状の背景にある分子メカニズムを明らかにできるのではと期待する。この研究を通して発見される分子標的に対する薬剤の効果を確かめたり、さらには発現を正常化させるための遺伝子治療開発にもこのモデルザルは利用できるだろう。幸い今回開発された系統は維持・増殖が可能で、ぜひ広く利用が進み治療開発研究が加速して欲しいと思う。   この分野の急速な進展を目にすると、一度ニコニコ動画で最近の研究解説としてまとめてみたいと考えている。

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