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2月11日:The British Medical Journalに見る医学雑誌の使命(2月3日号The British Medical Journal 掲載論文)

2016年2月11日
  様々な機会に紹介した、タミフルの予防効果についての治験の不正、あるいは3種混合ワクチンが自閉症の原因であると報告したWakefield論文の不正など、社会的問題になった臨床研究の不正解明にはいつもThe British Medical Journal(BMJ)が主要な役割を演じている。間違いなく編集方針として、人の命に関わる臨床研究での不正は絶対許さないとの使命感を持って、不正に目を光らせ、患者さんに安全な医療を少しでも安く提供するための活動を行っている。この編集方針は、医学の信頼性を保つためあらゆる雑誌が持つべきものだが、BMJほど徹底してこの方針を貫くことは難しい。本当にこの徹底性には頭がさがるといつも感じている。
  今週もBMJの面目躍如たる論文が2編掲載されていたので紹介しよう。最初の論文は2月3日に発行され、タイトルは「Rivaroxaban: can we trust the evidence ?(リバロキサバン:エビデンスは信用できるか?)」だ。リバロキサバンは心房細動患者さんの脳卒中を防ぐ経口抗凝固剤(第Xa因子阻害剤)としてバイエル薬品が開発し、ROCKET-AFと名付けられた大規模3相治験の結果を元に、多くの国で使われている薬剤だ。治験は卒中予防の目的で長く利用されているワーファリンとの比較で、卒中予防効果ではなく、服用した時に予想される脳出血などの副作用の頻度が調べられた。結果はバイエルの期待通りで、リバロキサン投与群では優位に脳出血とそれによる死亡が低下したという結果で、各国で承認され、治験結果もThe New England Journal of Medicineに掲載された(Patel et al, N Engl J Med;365:883, 2011)。
  この5年も前の治験になぜ今BMJが噛みついたのか?少し複雑だが、詳しく説明しよう。リバロキサンのセールスポイントは、凝固時間をモニターせずに決まった量を経口投与するだけで凝固を抑えて卒中を防ぐというものだった。一方、古くから使われていたワーファリンは患者さん自ら検査をして適量を服用する必要があった。従って2重盲検治験ではリバロキサン投与群ではワーファリンの偽薬を、ワーファリン投与群ではリバロキサン偽薬を与え、更にワーファリン群では必須の凝固時間をモニターする機器を、リバロキサン投与群にも提供してモニターさせ、自分がどの群に入っているのかわからない様にしている。驚くのは、被験者の緊張感を保つために、リバロキサングループの機器はコンピューターで制御された数値が出る様にして、ワーファリンの偽薬量を自ら調節させるという念の入れ様だ。
  一見すばらしい治験に見えるが、2014年FDAが測定の正確性に深刻な問題があるという警告を発した機器がこの治験のワーファリン群に使われていることが明らかになり、状況は一変した。すなわち、ワアーファリン群の患者さんが不正確な結果に基づき、必要以上の薬剤を服用した結果副作用が増えた可能性が出てきた。とすると、確かに煩わしいモニタリングから解放されるというメリットはあっても、薬剤としての優位性はないことになる。さらに、この機器の問題についてFDAはずっと前から把握しており、2005年に警告文書を会社に送っていることも明らかになった。もしこの警告が意図的に無視されてこの機器が治験に使われたとすると、最悪の場合副作用を誘導する様な細工が行われたことになり、大変な事件に発展してしまう。そんなことはないだろうが、少なくとも不正確な機器で行われた研究論文は撤回すべきだとBMJは主張している。現在のところ、治験を取りまとめたDuke大学や製薬企業から満足できる回答はない様だが、おそらく追求は続くだろう。この論文でも一番重要なのは、治験に参加した患者さん全員の個人記録を第3者にも利用できる様にして、何があったか検証することだ。しかし個人データも含む治験データの開示を製薬企業に義務付けるのは難しい様だ。   この状況を変えようと、個人記録も含む治験データの開示を論文掲載のための必須条件にしようと臨床研究を扱う雑誌編集者が立ち上がった話が1月23日のThe Lancetにレポートされている(「Sharing clinical trial data: a proposal from the international committee of medical journal editors (治験データの共有:医学雑誌編集者国際委員会からの提案)」)。現在研究の科学性を保証する唯一の方法がピアレビュージャーナルでの審査であることを考えると、大きな一歩だと思う。全ての治験データを開示することを決断した製薬企業のコンソーシアムも進んでいる。不正事件を倫理の問題として片付けず、構造問題として分析して、研究社会全体を変化させるための具体的な対策が提案され採択されていることを、我が国各機関で研究不正対策に関わる人たちもよく学んでほしいと思う。
もう一遍の論文は2月4日に掲載され、タイトルは「Pacemaker Battery Scandal (ペースメーカーの電池問題)」だ。スキャンダルと言っても、例えば製造会社を訴えるわけではなく、ペースメーカーの電池が10年以内で交換しなければならない現状を変えるべきだと訴えている。実際には10年より早く交換されることが多く、その度に手術が必要になり、また高価なペースメーカーも交換される。この状況は確実な需要が保証される点で病院と製造会社にとっては本当は望ましい。そのため新しい機器開発のインセンチブが生まれていないことをBMJは嘆いている。そして25年以上の寿命を持つペースメーカーの開発を呼びかけている。告発だけでなく、患者の視点に立った様々な記事が今後も掲載されることを楽しみにしている。

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