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2月14日:ネアンデルタール人の遺伝子遺産(2月12日号Science掲載論文)

2016年2月14日
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ドイツマックスプランク研究所元所長ペーボさんたちによってネアンデルタール人及び、アルタイ地方のデニソーバ人の全ゲノムが解読されて以来、ミトコンドリアゲノムといった限られた解析ではわからなかったことが続々明らかになっている。何よりも私たちの先祖とネアンデルタールは性的交渉を持ち、子孫を残してきたことがわかる。6万年前アフリカを離れて北に向かって移動を開始した現代人の祖先は、既にアジアヨーロッパに分布していたネアンデルタール人と交雑し、彼らの遺伝子が私たちに流入する。もちろんネアンデルタール人との交雑は日常的でないため、世代を重ねるごとに分散していく。このため流入してきた遺伝子は世界中の人を調べればどこかに見つかるのだが、個人個人が持っているネアンデルタール遺伝子はランダムに分布している一部だ。しかし、世界中どこを探しても存在しないネアンデルタール遺伝子がある。例えばサハラ以南のアフリカ人はネアンデルタールと出会っておらず、もともと遺伝子流入がないため、基本的にネアンデルタール遺伝子を持っていない。一方、ヨーロッパ、アジアに移動した私たちの祖先の生存に有害な遺伝子は淘汰されて消失する。一方、普通より高い頻度で分布しているネアンデルタール遺伝子もあり、これは有用な遺伝子として選択されてきたと考えられている。最も驚いた例は、チベット人の高地適応に関わる遺伝子がアルタイで発見されたデニソーバ人のゲノムに由来するという結果だろう。頻度が高いネアンデルタール遺伝子についても研究が進んでおり、皮膚や毛に関わるケラチン遺伝子に高い頻度でネアンデルタール人の遺伝子が保持されていることが示されていた。
  今日紹介するバンダービルト大学からの論文はアメリカで構築されているゲノムと臨床レコードをリンクさせたデータベースを使って、特定の疾患とネアンデルタール人の遺伝子との関連を調べた研究で2月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「The phenotypic legacy of admixture between modern humans and Neandertals (現代人の祖先とネアンデルタールの交雑が残した形質)」だ。これまで現代人の疾患に関連する多型の中からネアンデルタール人のゲノムに関連するSNP(一塩基多型)を探す研究は行われており、私も興味を持って読んできた。ただこの研究はアメリカ医療機関で蓄積されている疾患の臨床データとゲノム配列をリンクさせたデータベースを使ってより完璧を目指している点が特徴だ。正直に言うと使われたアルゴリズムの適切性については私にはよくわからない。ただ、実際の患者さんのゲノムと相関を求めていくと例えばネアンデルタール人の特定の遺伝子を受け継ぐ現代人は血液凝固の高い人が3倍近くになることがわかる。ネアンデルタール特異的な全遺伝子領域について同じような探索を繰り返して、特に病気と相関するネアンデルタール人由来の遺伝子として光によって誘発される角化症、うつ病、感情障害がトップ3としてリストされた。他にも相関の高い疾患SNPが見つかっているが、詳しく紹介するのはやめておこう。重要なのは、病気に関わるSNPは自然選択される運命にあると思っていたら、ネアンデルタールから受け継いだ遺伝子を何万年にもわたって維持していることだ。おそらく、現代人には問題でも、私たちを守る重要な形質だったのだろう。この研究では、気分障害や、うつ病、そして光線角化症は全て日照時間と関係しており、日照時間の短い地域で生きるためには重要な性質ではなかったかと想像している。ぜひ南のアジア人での結果を調べてみたいところだ。いずれにせよ、ネアンデルタール人ゲノム解析により、人間の進化に全く新しい地平が開けていることがわかる。

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