今日紹介するスウェーデン・カロリンスカ研究所からの疫学論文は、ノルウェーの成人を対象としてアルコールと心不全の関係を調べた研究だが、これを読んで私のイメージは少なくともノルウェーの人たちには当たらないことがよくわかった。タイトルは「Light to moderate drinking and incident heart failure – the Norwegian HUNT study (軽くから中程度のアルコール摂取と心不全の発症頻度—ノルウェーのHUNT研究)」で、International Journal of Cardiologyの最新号に掲載された。
ノルウェー中部のトロエンデラーグ地方の住民は移動が少なく、同じ土地に長く住み続けることから、重要なコホート研究の対象になっており、この研究では1995−1997年の3年間に20歳以上の成人に参加を呼びかけた約6万人の集団が対象になっている。研究の目的は、飲酒の習慣と心不全の関係を明らかにすることで、コホート参加者が地域の病院で心不全と診断される率と、聞き取り調査で調べた飲酒量の相関を調べている。結果だが、まず驚くのは、この地方の住人のほぼ半分がほとんどアルコールを飲まないことだ。飲んでも2週間に1回という人が41%、週0.5−3回という人が36%で、私が持っていた北欧=アルコール好きというイメージとはかけ離れており、まず晩酌はしないというのが当たり前のようだ。私のようにほぼ毎日晩酌をするのはこの地方では3.1%に過ぎない。次に驚くのは、予想に反し1日のアルコールの消費量が20g(日本酒1合)ぐらいまでは、全く飲んでいない人と比べると心不全になる確率が低いことだ。実際、5gぐらいまで急速に心不全になる率が低下し、そのまま20グラムまで同じレベルを保つ。検査結果では、LDLコレステロールの値が飲酒で下がるようだ。ワインか、ビールかといったアルコールの種類は全く相関がなく、結論としてはアルコールを少しは嗜んだ方が心臓にはいいという結果だ。おそらく飲まない人の多いこの地方の人には耳の痛い結果だろう。 もちろん同じ結果をそのまま我が国に当てはめられるのかはわからない。遺伝的体質もあることから、独自の調査が必要だ。とはいえ、「ノルウェー人も日本人も同じ人類だと思うと、結果が全く逆転することはあるまい」、などとほぼ毎日晩酌を欠かさない私はほくそ笑んでいる。