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2月26日:膵臓癌の分類(Natureオンライン版掲載論文)

2016年2月26日
   膵臓癌には親しかった友人を奪われた思いが強い。とは言っても引退した私が何かできるわけではないが、それでも新しい論文が出るとどんな進展があったのかと期待して読んでいるが、まだこれという決め手に出会うことはできていない。事実私が卒業してから40年になるが、ゲノムをはじめとして膵臓癌の分析は大きく進展したにもかかわらず、治療成績はほとんど前に進んでいない。今日紹介するオーストラリアを中心にした国際チームからの論文もNatureのArticleに掲載されたということで期待を持って読んだが不満が残る論文だった。ただ、この分野の現状を知るにはいいかなと考え、あえて紹介することにした。タイトルは「Genomic analyses identify molecular subtypes of pancreatic cancer (ゲノム解析により膵臓癌を分子的に分類する)」だ。
  オーストラリアは戦略的計画に基づき、ガンのゲノム解析を着々と進めている国だ。この研究でもオーストラリア全土から456例の膵臓癌手術サンプルを集め、全ゲノム、エクソーム、そして発現遺伝子の解析を行い、臨床経過やガンの組織像と相関させている。
   膵臓癌のゲノム研究論文を読むといつも感じるのは、膵臓癌がガンのお手本のような突然変異を持つことだ。この研究でも92%がKRAS突然変異、78%が細胞周期の抑制機構の変異、47%のTGFβシグナル分子の変異が見られている。この当たり前のKRAS変異の活性を制御できる薬剤の開発が本当に待たれる。

  この研究では全ゲノム解析を行っているが、これまでリストされた遺伝子変異以外は特にめぼしい進展はない。代わりにこの研究ではガンと周りの組織を含んだサンプルについて発現遺伝子を調べ、膵臓癌を4種類に分類できることを示している。それぞれを
1)扁平上皮型、TGFβシグナル活性上昇など周りの組織の炎症反応を示す遺伝子発現が見られる。遺伝子のメチル化が高度で、重要な遺伝子の発現低下が見られる。もっとも経過が悪い。
2)膵前駆細胞型、膵臓初期発生に関わる遺伝子の発現が特徴的。未分化な段階の細胞を代表すると考えられる。
3)内分泌・外分泌異常分化(ADEX)型。2)よりさらに分化した膵臓分化に関わる遺伝子の発現が強く見られる。
4)免疫反応型。周りの組織に強い免疫細胞の浸潤があり、これらの遺伝子発現を反映している。もちろん、免疫チェックポイント分子の発現が高い場合は予後が悪い。また、マクロファージの浸潤を誘導する分子の発現が強い場合も予後が悪い。
他には、p53変異があると、特定の遺伝子セットの発現が上下することなど、データは膨大だ。たしかに読んでいると、こうしてみたらどうだろうと様々な考えが湧いてくる。しかし、この書き方では実地の臨床医が興奮するというわけにはいかないだろう。
  Natureに送ってレフリーに回らず、「専門誌ではなく一般の人が対象のNatureにはあなたの論文は一般的興味をひかない」とリジェクトされた人なら肝に銘じているように、Natureの論文はもう少し専門外にも面白いと思える書き方をしなければならないはずだ。ゲノムを読めば論文が掲載される時代はとうの昔に終わっている。実地の医師を刺激し、臨床例からフィードバックが得られるような論文の書き方が必要な時代が来ていることを、ガンゲノムの研究者は理解すべきだろう。

  1. 橋爪良信 より:

    癌関連遺伝子が同定されて、関連性の検証によるターゲットバリデーション、スクリーニング系構築あるいは抗体,
    アンチセンスの同定までの間に大きなギャップが存在しています。GWASに分子生物学者が連携するような仕組みが望まれます。

    1. nishikawa より:

      全く同感です。ガンゲノムでは大きく出遅れた我が国ですので、他所にはない連携を推し進めるぐらいの新鮮味が必要です。

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