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3月10日:脂肪肝で肝ガン発生が亢進する理由(3月10日号Nature掲載論文)

2016年3月10日
   肝臓の慢性炎症が肝臓ガンの増殖を促進することは古くから知られているが、ガン自体に対する特異的免疫反応が脂肪肝によりどのように影響されるのかについてはあまり研究が進んでいない。今日紹介する米国国立ガン研究所からの論文はこの問題に取り組んだ研究で3月10日号のNatureに掲載された。タイトルは「NAFLD causes selective CD4+T lymphocyte loss and promotes hepatocarcinogenesis (NAFLDはCD4陽性Tリンパ球を選択的に減少させ肝ガン発生を促進する)」だ。
  タイトルにあるNAFLDはNon-alcoholic fatty liver diseaseの略で、アルコール以外の原因による脂肪肝を指す。この研究では、ガン遺伝子Myc遺伝子を導入されたトランスジェニックマウスに、メチオニンとコリンが欠損した特殊食を投与することでマウスに脂肪肝を発生させると、正常食と比べて肝ガンの発生率が上昇するというモデル実験系を用いている。肝ガン発生の亢進が確認できる4週と8週で肝臓に存在するリンパ球を調べ、CD4陽性細胞が選択的に半減していることを発見する。この発見がこの研究の全てで、免疫細胞が減少することで、ガンの増殖が亢進するというシナリオの糸口をつかんだことになる。実際にこのシナリオが正しいかどうか確認するため、脂肪肝を誘導していないマウスのCD4陽性細胞を抗体を用いて除去し、確かにCD4陽性細胞が肝ガンの発生を抑えていることを明らかにしている。
  あとはCD4T細胞が消失するメカニズムを調べる実験で、
1) 脂肪を蓄積した肝細胞から分泌されるステアリン酸が直接CD4T細胞に働いて細胞死を誘導すること、
2) CD4T細胞の中にガン抗原特異的RORγ細胞が存在し、これが減ることで肝ガンの増殖を抑えられなくなっていること、
3) ステアリン酸がミトコンドリア内の電子伝達系の活性を低下させ、その結果活性酸素が上昇し、CD4陽性T細胞の細胞死が誘導されること、
4) 脂肪肝内のCD4陽性細胞でも同じように活性酸素が上昇していること、
5) ミトコンドリア特異的抗酸化剤を投与するとCD4T細胞の減少を抑えることができること、
を明らかにしている。
   最後に同じことが人間でも見られるかどうかを確かめるため、ヒトのCD4T細胞をステアリン酸で処理し、マウスと同じように細胞死が誘導されること、NASHと呼ばれる脂肪肝のバイオプシーサンプルで、CD4T細胞が選択的に低下していることを認めている。
  脂肪肝により、特異的免疫細胞が殺されるとは恐ろしい話だ。しかし、脂肪組織では同じことは起こらないのか、感染に対する免疫反応も低下するのかなど疑問がわく。逆に新しい治療標的が見つかるかもしれないという期待もある。NASHの不安を抱える人には期待の持てる仕事だ。

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