今日紹介するバージニア大学からの論文は、これらの問題を一挙に解決しようと、磁気で調節可能なイオンチャンネルを作成しようとした研究でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Genetically targeted magnetic control of the nervous system (遺伝的に改変した細胞を磁気で刺激して神経系をコントロールする)」だ。
この研究では物理的トルクを感じるTRPV4チャンネル分子をこの目的に選んでいる。この分子に鉄と結合する分子フェリチンを融合させ、磁気に晒した時フェリチンと結合した鉄が磁気に引っ張られる時のトルクでチャンネルを開閉し、細胞を刺激するのが原理だ。ただ、アイデアはあっても利用可能な分子構造に到達するには試行錯誤が必要だ。この研究では20種類以上の様々な分子コンストラクトを試して、Magneto2と呼ぶコンストラクトにようやく到達している。あとは、本当にMagneto2を導入した細胞を磁気にさらすとカルシウムチャンネルが開くのかを細胞レベルで詳しく調べ、実際には細胞膜に高率に輸送されるように改変を加えたりして、使い物になるシステムを仕上げている。
あとはMagneto2遺伝子を特異的に発現し、同時にカルシウム流入が可視化できるようにした透明なゼブラフィッシュを用いて、磁気刺激がカルシウムチャンネルを開け、それが神経刺激として変換され、最後に行動の変化を誘導することを確認している。そして最後にMagneto2をマウス線条体のドーパミン受容体陽性細胞に導入し、磁気刺激でこの細胞の活動だけが誘導できること、またその結果ご褒美回路興奮による行動が誘導されることを示している。
私は専門でないので、完全に評価できないところも多いが、初めて自由に行動する動物の神経操作が可能になったような気がする。もちろん切れ味や特異性などまだまだ改変が必要だろう。また磁気をどの程度オンオフに使えるのかもわからない。しかし、脳操作を実現するために、あらゆる可能性が試みられ、研究が着実に進んでいることは実感できる。