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3月16日:血中のDNAを使って組織障害度を調べる(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年3月16日
   様々な組織の細胞が障害されている程度を図ることは、臨床検査の重要な項目になっている。血中に漏れ出た酵素を用いて肝臓細胞障害や心筋梗塞の程度を測定するGOTやLDH検査は一般の人にも馴染みが深い。ただ、このような検査のためには組織特異的な酵素を見つけてくることが重要になる。これに対し、今日紹介するイスラエル、ヘブライ大学からの論文は、血中に漏れ出たDNAを酵素の代わりに用いる可能性を調べた研究で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Identification of tissue-specific cell death using methylation patterns of circulating DNA(血中DNAのメチル化パターンを使って組織特異的細胞死を検出する)」だ。
   血中に漏れ出たDNAと言ってももちろんあらゆる細胞は同じ DNAを持っており、そのままでは診断にならない。この研究ではDNAに加えられる組織特異的メチル化パターンを組織細胞の指標にしている。例えばインシュリンをつくる膵臓β細胞のプロモーター付近の6カ所のCpG配列はβ細胞だけでメチル化を受けている。逆に神経細胞発生時に必要な転写因子Brain1は脳以外のほぼ全組織でメチル化されているが、脳のほぼすべての細胞ではメチル化が外れている。さらに、脱髄性疾患で問題になるMBP分子は髄鞘をつくるオリゴデンドロサイトだけでメチル化が外れているという具合だ。このように組織特異的メチル化パターンを特定して、そのパターンを血中に漏れ出たDNAで調べることで、1)1型糖尿病で膵島移植を受けた患者さんでの移植膵島の状態や、1型糖尿病の患者さんの状態、2)多発性硬化症の再発、3)外傷性の脳障害の程度、4)膵臓癌と膵炎の経過、鑑別などが可能であることを、少人数のパイロット試験ではあるが、示している。
  メチル化パターンを利用して直腸癌を診断する検査がすでにPhase IIIを終わっていることを考えると、当然の試みだと思う。様々な組織のメチル化パターンの比較から、検査に適したDNA断片を見つけてくるのもオーソドックスで、確かに新しい検査法が開発できることがわかる。しかし、読んでから、この検査が普及するかどうかを考えると、ビスルフィド処理とPCRが必要であることなど、普及を妨げる幾つかの問題があるようだ。少なくとも一般検査にはまだ適さないだろう。ただ、MiniOnなどの一分子シークエンサーで直接メチル化パターンを簡便に解読できるようになると(時間の問題だろう)、ブレークするかもしれない。それまでは、やはり論文のための論文という印象だった。

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