ところが先週号のNatureに、エディターの一人Alexandra Witzeが、北朝鮮と米国、英国の研究者が発表した論文について書いていた記事が目に止まり、興味を惹かれて読んでみた。論文は朝鮮人民共和国地震局、平壌新技術経済国際情報センター、米国地学調査局、英国ロンドン大学及びケンブリッジ大学、そして中国環境教育メディアプロジェクトの共同研究で、北朝鮮と中国の国境にまたがる白頭山(ペクトゥサン)の火山活動に関する論文だ。タイトルは「Evidence for partial melt in the curst beneath Mt Paektu(Changbaishan), Democratic People’s Republic of Korea and China (朝鮮民主主義人民共和国と中華人民共和国にまたがる白頭山(長白山)直下の地殻が部分的に溶解している証拠)」だ。
タイトルからわかる様に、火山学の研究で全く私の専門外だ。掲載されている図や表も評価する知識はない。とはいえどんな研究かはある程度理解できるので、紹介することにした。
まずこの研究を主導しているのはロンドン大学のチームで、長い交渉の末2013の核実験後、2015年まで白頭山に6箇所の地震計を設置し、1年間観測を続けるとともに、中国側から人工地震を起こして波を記録し、その解析から地殻状態を推定している。データを全てすっ飛ばして結論を急ぐと、白頭山の直下に大きなマグマだまりが形成されており、それにより地殻が一部溶けているらしい。このマグマは、歴史的大噴火を起こしたマグマと同じ起源で、現在起こっている白頭山の様々な活動の原因であると結論づけている。要するにいつ大噴火が起こってもおかしくない様だ。
この論文を読むまで私は全く知らなかったが、白頭山は946年、大噴火を起こしている活火山で、2002−2005年火山性地震が群発し注目された。もともとプレート活動と密接に関係している火山であるため、2011年東日本大震災後、破局的噴火が起こるのではないかと懸念される様になり、中国で観測が続いていた。ただ、北朝鮮側の研究が進んでおらず、今回初めて白頭山の現時点での地下活動が明らかになった。
研究のためには政治交渉も厭わず観測を実現した研究者魂には脱帽だ。ただ核実験を計画している金正恩政権が、いくら重要な時期だと言っても地震計の設置を許すとは思えないが、粘り強い説得による観測しか被害を食い止める方法はないだろう。目が離せない。