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5月10日CRISPRを使った遺伝子置換(5月5日号Nature掲載論文)

2016年5月10日
   CRISPR/Cas9による遺伝子編集は、ガイドRNAによって希望のゲノムの位置にCas9を導いて遺伝子を切断することにより行われる。こうして切断されたDNAはもちろん修復されるが、断端をそのまま修復する非相同末端結合機構が働くと欠失や挿入が起こるため、結合部分に突然変異が導入される。遺伝子をノックアウトするだけなら、この性質は好都合なのだが、特定のゲノム部分を正確に置き換える遺伝子ノックインには向いていない。ノックインの場合、置き換えたい配列を持つ遺伝子断片を導入して、相同組み換え修復機構を誘導する必要がある。実際、Cas9で切断した後、相同組み換え修復も誘導され、遺伝子ノックインが可能であることは示され、また実際に使われてきたが、ノックアウトと比べると思った通りのノックインが起こる確率は低いため、新しい方法の開発が待たれていた。
   今日紹介するロックフェラー大学からの論文はこの課題に挑戦した研究で5月5日号のNatureに掲載された。タイトルは「Efficient introduction of specific homozygous and heterozygous mutations using CRISPR/Cas9 (CRISPR/Cas9を用いた高効率のホモ、ヘテロ突然変異の導入)」だ。
  著者らはもともとヒトiPSに早期発症のアルツハイマーを引き起こす突然変異をCRISPR/Cas9と相同組み換え修復を用いて導入しようとしていた。ただ、こうして得られた遺伝子置換部分を調べると、欠失や挿入が起こっていることが多いことに気づいた。この原因が、CAS9活性が新しく修復された遺伝子も切断することによるのではと考え、CRISPR/Cas9と共に導入する相同組み換えの鋳型オリゴヌクレオチド (ODN)の配列を変化させて、新しい遺伝子へのCas9の働きを抑えることができる正確なノックインを達成するための条件を探っている。そのための手法としては、論理的に責めることも行ってはいるが、基本はトライアンドエラーを丹念に進めている
  まずCas9が認識するPAMやその上流に変異を導入したODNを用いると、相同修復後Cas9がDNA切断を起こすことを防ぐことができる。この方法では目的の変異以外に、Cas9をブロックする変異が入るので、この変異に対応するガイドRNAを使ったノックインをもう一度繰り返し、目的の遺伝子に置換することで、正確なノックインが10%以上の細胞で得られることを示している。他にも、PAM配列に変異の入った遺伝子置換を行い、次のラウンドで変異型 PAMを認識する変異CAS9を使う方法も開発している。
   普通ならこれでめでたしめでたしなのだが、この方法では両方の染色体で置換が起こる確率が高く、片方の染色体だけ変化させることが難しい。そこで、導入したい突然変異の場所と、Cas9による切断場所の長さを変化させて、片方のだけに置換がおこる確率を調べ、切断と導入変異の距離が20merあるとほとんどの置換が片方だけで止まることを見出している。ただ、この方法だと効率が低下するので、最後にホモ変異が入る条件で、正常の配列と、突然変異配列のODNを混合してノックインを行うことで、結果としてホモ変異導入細胞と、ヘテロ変異導入細胞を1対1の割合で作ることに成功している。
  一般の方には少しマニアックな話で分かりにくかったと思うが、ノックインのための条件を粘り強く探索し続け、目的を達成する条件を示した、この技術を導入したい研究者には役にたつ論文だと思う。
  この論文でも方法の開発だけでなく、新たに作成したホモ、ヘテロ変異細胞を用いてアミロイドの急速な蓄積を再現できることを示している。しかし、受精卵に直接注射して遺伝子ノックインを行えるほどの効率があるかどうかはわからない。当分はiPS/ESとの組み合わせが重要だろう。

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