今日紹介するリバプール大学からの論文はこの工業暗化突然変異がトランスポゾンの挿入であることを特定した研究で6月2日号のNatureに掲載された。タイトルは「The Industrial melanism mutation in British peppered moths is a transposable element (英国のオオシモフリエダシャクの工業暗化突然変異はトランスポゾンだった)」だ。
この論文以前の遺伝的研究から、工業暗化突然変異は17番染色体上の400kbの領域まで絞り込まれていたが、現象を到底説明できるレベルではなかった。この研究では従来の遺伝学的方法で100Kbにまで絞り込んだ後、BACやフォスミッドと呼ばれる大きな領域を含む黒い蛾のゲノムライブラリーをもとに、工業暗化を示すほとんどの蛾で見られ、正常の蛾には存在しないトランスポゾンの挿入がcortexと呼ばれる遺伝子の第一イントロンに存在することを特定した。
この挿入は2型のトランスポゾンが2+1/3回繰り返されたもので、それ自身は転写されない。従って、cortex遺伝子の発現量を変化させることで、工業暗化を促進していると考えられる。
この点を確かめるため、cortex遺伝子発現を発生段階で調べると、もともと羽が発生する時期に発現が上昇するcortex遺伝子の発現レベルが、トランスポゾン挿入によりさらに高まることが明らかになった。このcortex遺伝子はショウジョウバエの卵巣での細胞周期に関わることが知られていることから、おそらくこの遺伝子発現が羽の発生時期に促進されることで工業暗化が送るのだろうと結論している。
この工業暗化を誘導したトランスポゾンは、その後集団内で交配を繰り返しながら組み換えが起こることで、現在では挿入が多様化している。この多様化の程度をもとに、工業暗化したポピュレーションの移り変わりを計算すると、都市の工業化が起こる1600年から挿入が存在し、1800年代に都市化とともに急速に増加したことがわかる。
残念ながら、cortexの発現量が工業暗化を誘導できることの完全証明とまでは行っていないが、200年にわたって研究されてきた工業暗化の原因はついに特定されたと言っていいだろう。4月30日ダーウィンフィンチのくちばしの多様性を決めるHMGA2遺伝子の研究について紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/5170)、ダーウィン時代から研究が続いてきた進化の謎がまた一つ明らかになった。