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7月15日:科学の衣をまとったスポーツドリンクに潜む危険(7月24日号British Dental Journal 掲載論文)

2016年7月15日
   医学雑誌には、医師向けというより、一般の方に読んでもらったほうがいいと思える論文や意見が載せられることが多い。このような論文を紹介するのは一般メディアの役目だが、企業批判に直結する論文も多く、紹介されることは少ない。当然SNSの役割は重要だ。その意味で、一般の人にもわかりやすい医学論文紹介の最後はスポーツドリンクに潜む危険の問題を取り上げる。
      普通の食品や飲み物に、極めて限定された実験データを加えて科学の衣を着せて、「科学」の部分を切り売りするトクホや機能性食品が我が国では溢れかえっている。このような「食品+小さな科学」に惹かれるのは決して日本人だけではない。欧米でもっともポピュラーな「科学食品」の一つがスポーツドリンクだ。
  いつ頃スポーツドリンクが私たちの生活に入ってきたのか記憶はないが、私もランニングやウォーキングの際飲むこともあったし、問題があるとはあまり感じなかった。
   ところが2012年The British Medical Journal に掲載された、スポーツドリンクの様々な危険性を指摘するDeborah Cohenさんの記事「Cohen, Truth about sports drinks (スポーツドリンクの真実)」BMJ」(2012;345:e4737 doi: 10.1136/bmj.e4737 ) は衝撃的で、スポーツドリンクに対する私の見方を完全に変えた。
   この記事を紹介するのが今日の目的ではないので、要点だけ手短に紹介すると、次の2点になる。
   まずスポーツドリンクに科学性を付与するため、企業がなりふり構わず御用学者、専門雑誌、メディア、そしてIOCを含むスポーツ団体を巻き込み、「小さな科学」を武器に脱水にもっとも効果のあるスポーツドリンクというイメージを作り上げセールスを行っている点だ。BMJの調べでは、このような科学的データを提供したほとんどの研究者は多くの助成金をスポーツドリンク販売会社から得ている。
   一方、このようなつながりのない研究者がマラソン選手について行ったThe New England Journal of Medicineに掲載された論文では(N Engl J Med 2005:352:1550-6)、ドリンクの中身ではなく、一番重要な要素は水であることが示され、腎臓機能の研究者も、ドリンク中の電解質は低ナトリウム血症防止に役立たないという論文を発表している(Clin J Am Soc Nephrol2007;2:151-61.)。
このように都合のいい「科学」は金で買えることは、捏造以上にタチが悪いことを私たちは認識すべきだろう。
  今日問題にしたいのはCohenさんが指摘したもう一つの問題だ。すなわち、スポーツのための飲み物をうたいつつ、セールスの標的が一般の少年に向いている問題だ。スポーツドリンクには多くの砂糖が含まれており、さらに悪いことに酸性だ。従って、子供が体にいいと思って飲むと、肥満だけでなく、虫歯の原因になる。
 その後スポーツドリンクについての疫学調査が行われ、多く摂取する少年少女には虫歯や肥満が多いという論文が出されている。

  今日紹介するウェールズ・カーディフ大学公衆衛生学教室からの論文は、では、実際子供たちがどの程度スポーツドリンクを飲んでいるのかを調べた研究で7月24日発行のBritish Dental Journal に掲載されている。タイトルは「A survey of sport drinks consumption among adolescents(青少年のスポーツドリンク消費についての調査)」だ。
   研究では、12−14歳の少年少女にアンケート調査を行っただけの研究だが、青少年にスポーツドリンクが予想以上に浸透しているのがわかる。まず1日500ml以上飲む子供たちが14%に登り、70%近くが週に一回は飲んでいるという。しかもほとんどが、スポーツとは関係なく「おいしい」に加えて、エネルギーや脱水に対する効果があるという小さな科学に惹かれて、自ら小売店やスーパーマーケットで買い求めて飲んでいるという実態を明らかにしている。
  この論文は医学論文なので「歯科医は青少年が虫歯と関連するスポーツドリンクを想像以上に飲んでいることを知るべきだ」という結論で終わっている。しかしこのような論文こそ多くの市民に読んでもらうべき論文だと思う。
  英国売り上げトップのスポーツドリンクLucozadeを販売していた製薬会社グラクソ・スミス・クラインはBMJが追及を始めてから、彼らの製薬会社としての「大きな科学」のイメージが損なわれることを心配してか(?)、ロンドンオリッピックを機に、このブランドを我が国のサントリーに売却している。しかし、論文を読んでいるとBMJも今日紹介したBritish Dental Journalは今後も追及の手を緩める気配はない。
   英国のスーパーマーケットは、すでにカフェインを多く含むエネルギードリンクの少年への販売を自粛している。おそらく、同じ運動がスポーツドリンクにも及んでいくだろう。だからこそ、この論文でも青少年がどこでドリンクを購入するか詳しく調べている。今後もBMJの追及に目が離せない。
 これと比べると我が国は無風状態だが、少子高齢化社会、青少年の健康を優先するなら、議論が始まってほしいと願っている。

  1. 橋爪良信 より:

    運動中には血糖値が下がっていて、体液成分とのバランスを考慮すれば、アイソトニック飲料は実はハイパートニック飲料なので、そのまま飲めばより脱水状態を起こす可能性があると聞いたことがあります。 水と一緒に半々程度に飲むとよいようです。
    誤っていましたらご指摘ください。

    1. nishikawa より:

      例えばトライアスロンをやっている友人だと、1日6000kcal食べても痩せるそうです。一番懸念されるのは、青少年で、ペットボトル症候群もあり得ると思います。

  2. 橋爪良信 より:

    カフェイン入り飲料を飲みながら深夜勤務を続けてカフェイン中毒で死亡したアルバイトの方がいました。
    飲料の飲み過ぎが問題との指摘がありましたが、そのような勤務体制で雇用を続けた大手エネルギー会社のガソリンスタンド経営者の責任に議論が及ぶことが無かったことに強い不満を覚えます。しかも、あっという間に報じられなくなりました。
    マスコミは権力・権威との衝突を畏れ、ジャーナリズムのあるべき姿を見失っています。

  3. 篠原範行 より:

    「熱中症予防のためクラブ活動中にガブガブスポーツドリンクを飲ませる!スポーツドリンクを禁止するとは何事だ!スポーツをするなというのか!それとも熱中症にかかって死ねというのか!」とクラブ顧問の先生に怒られて困っている歯科医です。「糖分の取りすぎとなるので、激しいスポーツをする場合でなければスポーツドリンクは推奨されない」というのが以下のリンクでは言われて言われていますが、中学生の夏場のスポーツ時にスポーツドリンクではなく水で十分という科学的論文はありませんでしょうか?http://healthland.time.com/2011/05/30/teens-dont-need-sports-and-energy-drinks-pediatricians-say/?fref=gc&dti=140907229374688

    1. nishikawa より:

      わざわざ飲まなくていいというのと、飲まないほうがいいというのとは違います。一番懸念されるのは、スポーツドリンクなら体にいいと、毎日大量に飲む子供が多くいることです。

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