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8月8日:グンカンドリは飛びながら寝る(8月3日発行Nature Communications論文)

2016年8月8日
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    眠りは絶対に必要か?もしそうなら、なぜ危険を冒しても眠る必要があるのか?という問いはなんども議論されてきた。一定の期間眠らなくても何とかなるという考えの根拠は、長距離を飛び続ける渡り鳥だが、最近の研究では頭の半分を覚醒させるという離れ業ができるようで、やはり寝るのは必要なようだ。しかし、鳥の眠りはなかなか多様で、2012年Scienceに出た論文によると、メスをめぐって争う季節になると、3週間ほとんど寝ないで争うオスがいるようで、結局生まれてきた子供は、寝る時間が最も少ないオスたちの子供だったことが報告されている。
   今日紹介するドイツマックスプランク鳥類研究所からの論文は長距離飛行中の脳波と行動を調べて、飛行中の鳥の眠りについて研究した論文で8月3日発行のNature Communicationsに掲載された。タイトルはズバリ「Evidence that birds sleep in mid-flight(鳥が飛行中に寝ているという証拠)」だ。
   研究は徹底している。ガラパゴスに住むグンカンドリに左右の視覚野の脳波、頭の傾き、そしてGPSによる位置情報を同時に記録するテレメーターを装着し、3000km分の飛行について記録している。こんな操作をして十分長時間の飛行が可能なのは、大型のグンカンドリならではといえる。
   さてグンカンドリも私たちと同じように眠ると脳波がゆっくりしたスローウェーブ(SWS)に変わる。また、夢を見るらしくREM睡眠も観察される。陸上にいるときはだいたい半分ぐらいの時間寝て過ごしており、普通寝るのは夜だ。    では飛行中に寝ているという証拠は得られたのだろうか?結果は期待通りで、確かにSWSが現れる。ただ、その時間は短く、だいたい全時間にして2−3%だ。すなわち、眠らないでも済ませられる機構が働いて飛んでいるが、それでもどうしても寝てしまうといったパターンだ。疲れたサラリーマンが、つり革につかまってウトウトすると言った感じだろう。
   ただ、鳥が人間と違うのは、これまで報告されているように、鳥は片方の脳だけ休めることができる。実際、グンカンドリも飛行中は片方の脳だけ眠るパターンが多い。また、そのときはほとんど活動している脳の反対側を軸に旋回している。
   しかし、脳全体が寝ているときも間違いなく存在し、それでも飛行を続ける。飛行中に完全に寝てしまう場合は、上昇気流に乗って高い高度を飛んでいる時が多いようで、うまくできているなと思う。
   話はこれだけだが、IT技術の進歩のおかげで、飛行中の脳波記録が可能になり、ついに鳥は飛行中に完全に寝てしまうことがあることを証明できた。とはいえ、飛行中に寝ないようにするメカニズムも存在し、陸に戻っても少しの間不眠が続くことも分かった。ひょっとしたら、鳥の眠りから、現代人の睡眠異常を治療するための大発見が生まれそうだ。

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