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9月5日CARTガン治療の挫折と将来(9月1日号Science掲載記事)

2016年9月5日
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    実を言うと今アイスランドにいる。今日は1日ドライブと山歩きで過ごした後、夕食のワインで良い気持ちになって一寝入りしてから論文を選ぼうとしていたら、一緒に旅行しているMartinがオーロラが見えるという。そのまま表に出て、現れたり消えたり、強くなったり弱くなったりする夜のスペクタクルを眺めているうちにしっかりと記事を書く時間がなくなってしまった。そこで、9月1日号のScienceに編集者のJennifer Couzin-Frankelが書いている記事を紹介してお茶を濁すことにした。記事のタイトルは「Second chapter (第2章)」だ。
   二年前の10月、この記事で扱われているCART治療、すなわちキメラ抗原受容体T細胞治療の論文を読んだ時の私の驚きについて紹介した(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2309http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2309)。この治療は、ガンが発現している抗原に対する抗体の遺伝子をT細胞受容体のシグナル伝達部分と結合させたキメラ抗原受容体遺伝子を合成し、この遺伝子を導入した患者さんのT細胞を調整して投与することで、抗体が認識する抗原を持つガン細胞を殺してしまおうという作戦だ。紹介した論文で普通の方法では手の施しようがなかったリンパ性白血病を、60%近くの患者さんで消失させることに成功したという画期的なものだった。原理を見ても極めて論理的で、三十年にわたるT細胞研究の成果がこの治療に凝縮しているように感じて、私も感激した。
   最初の成功に力を得て、この治療法は現在固形ガンなど他の腫瘍への応用が始まっているが、残念ながらうまくいっていない。
理由として、
1) リンパ性白血病はCARTと相互作用しやすい場所に存在している、
2) CD19という抗原が全てのガン細胞に存在し、なおかつこの抗原は正常マウスのB細胞にだけ発現しているので、ガンと共にB細胞がなくなっても患者さんは生きていられる、
3) リンパ性白血病は周りの細胞に影響されることは少ないが、固形ガンは微小環境との相互作用が強く、その結果せっかく移植したCARTの活性が抑制されてしまう。
などが考えられる。
   さらに、2009年には、この治療を受けていた直腸癌の患者さんが、CARTによるサイトカイン分泌亢進により肺障害で亡くなり、この治療が全身の副作用と無縁でないことも明らかになってきた。
   このように最初のフィーバーは終わって、もう一度基礎的にこの方法を見直し、先に挙げた問題点おw克服することで、より特異的で効果の高い治療へ発展させる努力が続いていることを報告している。
  この記事は、この治療に大きな期待を寄せていた私には少しがっかりさせる内容だった。それでも、これまでやってみないとわからないガンの免疫治療を、論理的な治療に変革し、免疫系がガンの根治をもたらせる力があることを示した点で、CART治療の貢献は大きい。確かに当初の高揚感は水を浴びせられたが、是非第2章でこの方法が改良され、固形ガンにも適用され、根治してくれることを祈っている。
  1. 中原 武志 より:

    オーロラを観ることができたようでラッキーでしたね。
    お土産話を楽しみにしております。

  2. Okazaki Yoshihisa より:

    2009年には、この治療を受けていた直腸癌の患者さんが、CARTによるサイトカイン分泌亢進により肺障害で亡くなり、この治療は全身の副作用と無縁ではない。

    ガンの免疫治療を、論理的な治療に変革し、免疫系がガンの根治をもたらせる力があることを示した点で、CART治療の貢献は大。

    →手詰まり状態の難治ガン制圧への方向性を示せたことは大きいと思います。
    『細胞を創る』研究会、注目しております。

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