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9月30日:MECP2の作用機序(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

2016年9月30日
   私たちのNPO(AASJ)は、患者さんとの連帯を掲げてはいるものの、私自身のことを考えると、下り坂の体力を使って何らかの貢献をすることは難しいし、もちろん財力もない。また現役を完全に退いているので、研究を通しての貢献は言うに及ばず、「お上」とのコネも全くない。唯一できることは、患者さんの求めに応じて知識を集めてくることだ。3年これをやってみると、この点についてはだいぶ自信が出てきた。どんな病気でも、研究の現状について知りたいと思われる患者さんや家族の方は、遠慮なく連絡していただきたいと思う。
   様々な病気の知識を集めていて、個人的興味を惹かれる病気があることがわかる。そのうちの一つがMECP2の欠損(RETT症候群)とMECP2重複症だ。というのも、メチル化DNAに結合する以外にほとんど機能解析が進んでいなかったこの分子の機能が、病気の解析を通して進展し、またその進展が病気の理解や治療研究にフィードバックされるといういい循環が見られるからだ。また、非特異的な転写調節分子に見えるMECP2が、かなり特異的な過程に効いている点も、発生学にとって重要に思える。
   文献検索システムでMECP2を検索すると、9月だけで20近い論文が出ているのも、多くの研究者がこの分子に惹かれている証拠だと思っている。もちろん、ハッとする様な研究が目白押しというわけではないが、基礎的にも臨床的にも研究者の関心は高い様だ。
   今日紹介するテキサス大学、サウスウェスタン医療センターからの論文は、MECP2を中心に様々な研究が再構成されつつあることを示す典型で、Nature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「MECP2 and histone deacetylase 1 and 2 in dorsal striatum collectively suppress repetitive behaviors(線条体背側に発現するMECP2とヒストン脱アセチル化酵素(hdac1とhdac2)は反復行動を抑制する)」だ。
   MECP2がHDACと相互作用することが知られていたが、MECP2異常による症状がHDACの発現異常でも起こるかどうかはわかっていなかった。この研究では幾つかの予備実験の後(この結果も示されているが割愛する)、ヒストン脱メチル化酵素hdac1とhdac2両方の遺伝子を線条体でノックアウトすると、セロトニン分泌低下でも起こるのと同様のマウスの毛づくろいの頻度が上昇することを発見している。
    次に、hdac1&2欠損マウスで興奮性シナプスの裏打ちタンパクの一つSapap3の発現が低下すること、そしてこの分子が欠損するとやはり毛づくろいの頻度が上がることを確認している。
   MECP2欠損マウスでも毛づくろい行動の上昇が見られることから、hdacからSapap3の経路にMECP2が関わると当たりをつけ、Sapap3の遺伝子発現を調節する遺伝子領域にMECP2が結合すること、そしてSapap3遺伝子を線条体に導入することで、MECP2欠損による毛づくろい行動異常が治ることを示している。
  論文としては、最初からhdac,Sapap3,MECP2の三者が関連するというストーリーがあったように思えるが、MECP2と特異的な分子を結びつけた点では、病気の理解に重要な一歩になると思う。
   この様な論文を見ていて思うのだが、MECP2欠損マウスを調べるなら、どうして MECP2c重複マウスをついでに調べないのかという点だ。特に、Sapap3が重複症でどうなっているかはMECP2研究上も、病気の理解の上でもとても重要な実験だと思う。簡単な実験だから、早く結果が出てくることを期待する。

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