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10月12日:なぜ指は5本になったのか(Natureオンライン版掲載論文)

2016年10月12日
   稲盛財団研究助成の審査委員を務めていた頃、生物系だけでなく、様々な分野の先生とご一緒したが、数学者の広中先生と交わした会話は今でも覚えているものが多い。その中の一つを紹介すると、審査委員会前に急に寄ってこられて、今も新しい問題にチャレンジしていること、そして今取り組んでいる問題が解ければ、指がなぜ5本かわかる、と言われた時、数学と聞くと怖気付く私は、合いの手も入れられず話を聞くだけだった。
   今から考えてみると、生物学者としてはっきり言うべきことはたくさんあったはずだ。まず、指が5本というのは、すべて必然(物理的)で決まるわけではなく、基本的に無作為な進化過程を経て生まれた結果であること。それでも、フィボナッチの級数に従う葉の並びのように、必然的過程の関与はあるはずで、数学から習うことは多い、などだ。まあ今からではもう遅い。
   今日紹介するモントリオール大学からの論文は、哺乳類の指が5本になった理由を考える論文でNatureオンライン版に掲載されたが、読んで広中先生のことを思い出した。タイトルは「Evolution of Hoxa11 regulation in vertebrates is linked to the pentadactyl state (脊椎動物でHoxa11遺伝子調節領域の進化が指が5本あることに関わっている)」。
   おそらく一般の人には馴染みがないと思うが、Hox遺伝子は1番から13番まで、ゲノム内でクラスターを作って存在し、ゲノム上でのHox1-13の並びの順序が、体の前後軸に沿って発現する順序と相関している。これにより、体の前から後ろまで、各体節で異なるHoxセットを使うことで、適切な場所で、例えば肋骨と腰骨をプログラムすることができる。
   またHoxのうち後方の遺伝子は、四足類ができる時に四肢のプログラムに使われ、その後手のひらができる時にも形を決めるのに使われる。
   この研究では、Hox11とHox13のクラスターが、魚のヒレでは同じところに発現しているのに、哺乳動物になると手のひら全体に発現するHox13に対して、Hox11が手のひらの根元だけで(すなわち指になる領域以外)発現するのが、哺乳類特有の5本の指に関係しているのではと考え、この発現パターンのメカニズムを探っている。
   結果をまとめると、
1) Hox11,Hox13遺伝子自体は同じ調節を受けており、Hox11遺伝子全体を標識分子に置き換えると、Hox13と同じ発現パターンを示す。
2) 1)の結果は、Hox11遺伝子から転写されるRNAがHox11遺伝子自体の指での発現を抑制していることを示唆する。
3) 実際、Hox11遺伝子の最初のエクソンから逆さまに転写されるRNAは、指の領域で発現し、Hox11の発現を抑える。
4) このノンコーディングRNAの転写を調節するエンハンサーをノックアウトすると、Hox11が指領域でも発現する。
5) このノンコーディングRNA転写に関わるエンハンサー領域は、なんとHox13の支配を受けており、Hoxa13,Hoxd13両方の遺伝子をノックアウトすると、Hox11の発現は手のひら全体に広がる。ただ、Hox13のみのノンコーディングRNAの転写は説明できない。
6) Hox11を指の領域で発現させると、指の本数が上昇する。
7) ノンコーディングRNAの調節領域は哺乳動物になるとよく保存されている。
すなわち、進化の偶然で、Hox11のノンコーディングRNAがHox13の支配を受けるようになり、この作用でHox11の発現が指の領域から排除されることが、5本の指の形態と関わるという結論だ。
   とはいえ、なぜ5本かについては、この研究では答えられない。もう一度広中先生の説を拝聴してみたいと思う。

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