AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 10月16日難民問題のサイエンス(10月14日号Science掲載論文)

10月16日難民問題のサイエンス(10月14日号Science掲載論文)

2016年10月16日
    10月から日本フンボルト協会・関西支部との共同企画で「ドイツへの新しい眼差し」と題して、フンボルト財団奨学生としてドイツに留学経験のある方々を招いて、現代ドイツについて語ってもらい、ニコニコ動画やYouTubeで発信する企画を始めている。第一回は10月2日、同志社大学美学科教授の岡林先生の、異才シュリンゲンジーフを中心に、ドイツ再統一とテロリズムについて語ってもらい、私と平安女学院大学教授、高橋先生が議論に参加した(https://www.youtube.com/channel/UCrUx4EiHsTRpuKnElG3QDVA)。
   次回は11月13日午後4時から、同じ高橋先生をお招きして、ヨーロッパ各国を揺るがしている難民問題とドイツの立場について語ってもらうことになっている。ジャーナリズムとは異なる視点でこの問題を議論しようと考えており、多くの方に見ていただきたいと思う。
   この企画では、元科学者の私にはなかなか出番はないので、もっぱら聞き役かと思っていたが、幸い難民問題については今週号のScienceにヨーロッパ各国18000人を対象に難民問題についての考えを聞いた調査論文が発表されたので、今日紹介するとともに、当日重要な資料として高橋先生の意見を聞いてみたいと思っている。
   スタンフォード大学とロンドンスクールオブエコノミックスからの論文で、タイトルは「How economic, humanitarian, and religious concerns shape European attitudes toward asylum seekers (難民に対する欧州人の意見に及ぼす経済的、人道的、宗教的要素の影響)」だ。
   研究ではヨーロッパ各国の市民18,000人を対象に、コジョイント分析手法を用いて難民の受け入れに当たっての条件を聞いている。
   コジョイント分析というのは商品開発や政策決定のためによく利用される調査手法で、一つ一つの問題に複数例の回答を提示し、回答者に選ばせる方法で、これを基礎に商品企画などが行われている。この研究では商品開発ではなく、今ヨーロッパを揺るがす難民問題に対する政策決定に役立てることが目的だ。
   しかし驚くのは、このような研究がScienceにレギュラーに掲載されるようになってきたことで、この前の号にはインドの医療政策についての論文が掲載されている。またNatureでも先週号にはアフリカで問題になっている女児の割礼が取り上げられている。これについては明日紹介するつもりだ。
   今日の論文に戻ろう。
  調査では、保安問題と関連して、難民の聞き取り調査で答えに一貫性があったかどうか、出身国(シリア、アフガニスタン、コソボ、エルトリア、パキスタン、ウクライナ、イラク)、経済問題と関連して母国での職業、人道問題に関連して迫害等の経験、国を捨てた理由、そして宗教などについて幾つかの例が提示され、それぞれの例について難民受け入れを支持する理由になるか、拒否する理由になるかを聞いている。
   調査した15カ国で結果に大きな差はなく、
1) 身元調査で首尾一貫していない場合は受け入れ拒否する、
2) 職業に関しては教師や医師のような高レベル教育を受けた難民を優先して受け入れ、受け入れ国の経済的負担にならないようにする。
3) 拷問などの迫害を受けた経験のある難民を優先的に受け入れる。
4) イスラム教徒は受け入れを拒否したい。
という結果になっている。ただ、最後のイスラム教徒受け入れについては、左翼政党支持層ほど拒否反応が低い。    現在ヨーロッパに押し寄せる難民のほとんどがイスラム教徒である一方、イスラム教徒への拒否反応が強い現状を考えると、「宗教、信条に関わらず、母国から迫害を受ける人は、何人も難民として認めるべきである」という国連憲章は極めて高いハードルであることがわかる。
   おそらく、難民の身元調査を徹底さ保安上の問題を取り除くこと、難民が経済的に貢献することを説得するとともに、市民のイスラム教アレルギーを解消するための政治的想像力が必要であることが、政治家へのこの研究のメッセージだろう。
   しかし、政治家がサイエンスを読む時代を目指すサイエンス編集者の選択意図がはっきりわかる論文だった。

  1. 橋爪良信 より:

     これまでの我が国の難民政策は出入国管理が中心であり、多文化共生を前提とした社会統合政策を欠いてきています。 最初の課題は、既に定住している移民・定住難民の統合を、政策として公共圏で論じることになりますが、この論文の分析手法は有効であると考えられます。しかし、難民受け入れについて、ほとんど経験のなない我が国では設問の設定には、慎重さが要求されます。世論調査と同様に、設問の設定は世論を誘導できるからです。
     インドシナ難民問題は、発生から40年を経て日本/日本人に少なからぬ影響を及ぼしてきましたが、外国人に対して過度に警戒的、あるいは無関心な我々の意識が変わっていかなければ、新しい社会統合は実現できません。
     今後、日本社会が多文化化され、積極的に移民・難民問題に対応できるかどうかが試される時が来るかもしれません。

    1. nishikawa より:

      11月には、高橋先生と突っ込んだ議論をしたいと思っています。

  2. 橋爪良信 より:

    ドイツにおけるムスリムとの共生の取り組みは、社会学研究として大変メジャーになっています。キリスト教系の政党が中心になって頑張っています。

    1. nishikawa より:

      そのドイツで大きな変化が起こっているようです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*