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10月24日 ヒトの抗原特異的Treg細胞の役割(11月3日号Cell掲載予定論文)

2016年10月24日
    昨日に続いて、今日も人間の免疫機能に関わる研究を紹介しよう。屠殺して様々な臓器を調べることができる実験動物と異なり、末梢血に流れるリンパ球だけが利用できる条件で、ヒトの免疫反応を詳しく解析することは難しい。しかし、そのような制限と格闘しながら、研究を進めているグループは増えてきている。
   今日紹介するベルリンのシャリテ病院と、ドイツリュウマチ研究センターからの論文は抗原特異的な制御性T細胞(Treg)が確かに人間で働いていることを証明した研究で11月3日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Regulatory T cell specificity directs tolerance versus allergy against aeroantigen in human(制御性T細胞の特異性がヒトの飛沫抗原に対する免疫寛容かアレルギー科を決めている)」だ。
   Tregは、言わずと知れた、現在阪大の坂口さんが免疫寛容のメカニズムを研究する過程で発見したT細胞の亜集団で、この細胞を無視して免疫系は語れない中心的概念になっている。抗原に反応して活性化され、同じ抗原に対する免疫反応を抑制するために存在し、自己に対して免疫反応が起こらないようにしている。
   坂口さんによってTreg誘導のキー分子として特定されたFOXP3が機能不全に陥ると、新生児期から強いアレルギーに陥ることが知られており、ヒトでもTregが免疫調節に重要であることが明らかになっていた。しかし、通常の抗原特異的T細胞を検出する方法でTregが検出できないため、抗原特異的なTregの機能を厳密に調べる研究は遅れていた。
    抗原特異的Tregを直接検出できないため、この研究では、ヒト末梢血を試験管内で刺激後、Tregを純化する新しい方法を用いて、すでに抗原に感作されたメモリーTregを定義することで、なんとか抗原特異的Tregを検出している。この方法を用いると臍帯血ではTregを検出できない。
   この方法で検出されるTregは、卵を含む食物に対しては誘導されにくいこと、一方吸い込んでアレルギーになる花粉やダニ抗原などに対しては反応性が高いことがわかり、Tregの誘導しやすさが抗原により違うことが明らかになった。以上の結果は、成長過程で誘導されたTregは、ヒトの末梢血に存在し、いつでも抗原に反応できることを示していることを示している。
  次に、アレルギーを起こすT細胞も同じように刺激して、使っているT細胞受容体遺伝子を解析すると、同じ抗原でも違った受容体が反応していることが明らかになった。
   この基本実験システムを用いて、次に樺由来抗原(Birch)に対してアレルギーになっていない正常ヒト末梢血を調べ、Birchにより誘導されるTregが存在し、Birchが空気中に飛散する3−5月には上昇して、免疫反応を抑えるのに一役買っていることを示している。
   一方アレルギーになっているヒトでは、Treg自体の反応性は変わらないものの、アレルギーに関わるT細胞の数が著明に上昇している。この結果は、アレルギーになるヒトでは、Tregとは異なるタンパク質が通常のT細胞を刺激するため、反応が抑制できないと考えられる。
   これを確かめるため、それぞれの抗原を構成タンパク質に分けて反応を調べると、構成している抗原によりTregと通常のT細胞の誘導性が異なること、そして、抗原粒子から溶け出やすい分子量の小さなタンパク質ほどアレルギーを誘導するT細胞を活性化できることを明らかにしている。
   まとめると、空気中に飛散しているアレルゲンはTregを誘導して、アレルギーを誘導するT細胞の活性化を抑え続けているが、アレルゲンを構成するタンパク質の中で溶けやすく、アレルゲンから分離しやすい抗原はTregの抑制から逃れて、アレルギーを誘導するという結論だ。
   今後、抗原特異的Tregを直接検出する方法の開発など、やらなければならないことは多いが、ヒトでも抗原特異的Tregが体内を循環し、通常のT細胞の抗原反応を抑制していることを示す実験系を確立したことは重要な貢献であることは間違いない。他にもガンや自己免疫病など、多くの分野で役にたつ方法が確立された。
   この概念を最初に確立した坂口さんを擁する我が国にとっては、ヒトでもこの概念の正しいことが明らかにされるのは嬉しい話だ。ただ、次世代シークエンサーが普通に利用されるようになってから、ヒトの免疫機能を解析した研究がトップジャーナルに多く掲載されるようになったにもかかわらず、ヒトの免疫機能研究で我が国のプレゼンスが低いように見えるのは問題だ(私の見落としならそれでいい)。免疫に限らず、人間についての研究も我が国でどう取り組むのか真剣に考える時が来ている。

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