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11月4日: PD-1阻害は長期記憶を誘導できるか?(10月29日号Science掲載論文)

2016年11月4日
昨日に続いて免疫記憶とエピジェネティックスに関する論文を紹介する。今日は、今話題のガン抗体治療薬オプジーボに関わるPD-1阻害について焦点を当てた研究だ。
   ガンの友人に相談された時、免疫チェックポイント機能を抑制する抗体治療ができてからは、最後の望みを託す綱として選択肢が増え、相談に乗る方も少しは気が楽になった。とは言え。すべての人がこの治療に反応するわけではなく、実際は反応しない人のほうが多い。さらに、根治の可能性についても、いつかは効果がなくなることを覚悟する必要がある。これは、チェックポイントを抑制する治療でガンに対するキラーT細胞を再活性化し、消耗を防げても、長期の免疫記憶誘導には至らないことを示唆している。
   昨日解説したように、長期記憶が成立するためには、エピジェネティック・リプログラミングが必要で、この条件を発見できれば、免疫反応を長期間維持することが可能になる。今日紹介するペンシルバニア大学からの研究もPD-1阻害治療が記憶成立に至らない原因を調べた論文で10月29日号のScienceに掲載された。タイトルは「Epigenetic stability of exhausted T cells limits durability of reinvigoration of PD-1 blockade(PD-1阻害により再活性化したT細胞の永続力をエピジェネティックな安定性が制限する)」だ。
   同じ号にハーバード大学からも同じラインの研究についての論文が発表されているが、わかりやすいという点でこの論文を選んだ。
   研究では、CD8T細胞を誘導するLCMウイルスに対する反応をガンの代わりに用い、チェックポイント阻害としては抗PD-1の代わりに、PD-L1に対する抗体を用いている。    まず、抗原刺激が続いてT細胞と、抗体処理により再活性化させたT細胞の遺伝子発現を比べ、PD1阻害によりキラーT細胞が刺激前の状態をある程度回復できるが、記憶T細胞と比べると、遺伝子発現は大きく違っており、また無菌マウスでの細胞の寿命も短いことを示している。すなわち、PD-1阻害だけでは消耗したT細胞をリフレッシュは出来ても、免疫記憶を成立させるほど大きなエピジェネティックリプログラミングが起こらないことを示唆している。
   この結果をエピジェネティック状態の変化と相関させるために、昨年の8月このホームページで紹介したATAC-seqと呼ばれる方法でクロマチンが開いている領域をゲノム全体にわたって比べている。これにより、PD-1阻害により確かにクロマチンの変化が誘導されるが、ほんの一部だけで、記憶T細胞で見られるクロマチン変化のたかだか10%ほどしか変化が誘導できないことがわかった。
   ではPD-1阻害による免疫反応を持続させるためにどうすればいいのか、そのヒントを求めてデータを詳しく解析し、抗体処理後IL-7やIL-2刺激である程度持続性を高められる可能性を示している。
   このように、エピジェネティックスの観点から見ると、PD-1阻害では長期記憶という安定なエピジェネティック変化を誘導することが難しいことがわかる。ただ、山中4因子によるリプログラムからもわかるように、あるクリティカルな転写ネットワークが成立すると、多くの遺伝子を巻き込むリプログラムが可能なので、このクリティカルポイントを探求する意義は大きいと思う。また、昨日紹介したように、代謝などの一般的変化がこれに加わると、リプログラムの可能性が高まる。
   チェックポイント治療による根治を目指してこの領域の研究が進むことを期待している。

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