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11月5日:エネルギードリンクによると思われる肝炎(BMJ Case Report掲載症例報告)

2016年11月5日
このホームページでも、患者さんから得た経験を一般化するためには、一定数の数を集め、科学的手続きを踏んだ研究から得られるエビデンスが必要であることを強調してきた。とはいえ、医学では伝統的に一人一人の患者さんから学ぶことも重視しており、多くの臨床医学雑誌は症例報告と呼ばれる、医師が経験した一人あるいは複数の患者さんについての詳しいレポートを掲載している。
   この症例報告重視の伝統は、1)人間は遺伝的にも生活習慣においても極めて多様なため、一般化できない発見が多く存在すること、2)たとえ一般化できる臨床的発見も、最初は一人の症例を詳しく解析する過程から始まること、3)まれなケースでも必ず繰り返すため、次の患者に備えるため、多くの医師と経験を共有することが重要なこと、などが背景にある。
   今日紹介するフロリダ医科大学からの論文はまさにこの3つの伝統全てを持つ症例報告でThe British Medical Journal Case Reportにオンライン発表された。同じような症例は我が国でも発生する可能性があり重要性が高いと思い紹介することにした。タイトルは「Rare cause of acute hepatictis: a common energy drink(急性肝炎の珍しい原因:一般のエネルギードリンク)だ。
  急性肝炎と聞くと、一般の方はウイルス性肝炎を思い浮かべると思うが、米国ではその半分が様々な薬剤や化学物質が持つ肝毒性によることが多い。この場合、原因物質を特定し、速やかに暴露を止めることがまず必要がある。この原因物質の中には、薬物や化学物質として認識されていないものも多く、その場合特定が困難になる。なかでもドリンクや食品に混在する化学物質になると、本人もほとんど自覚がなく、診断が難しい。
   この論文では倦怠感、食欲不振、腹痛から始まり、吐き気と嘔吐が繰り返し、強膜の黄疸に気づいて病院を訪れた50歳の患者さんの臨床経過がレポートされている。
  症状から当然急性肝炎を疑い、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、薬物による肝炎の可能性の検討から始めている。入院時の診察では、薬の服用や化学物質への暴露は認められず、また肝炎を起こすウイルス検査は陰性だったが、C型肝炎ウイルス感染とウイルスに対する血中抗体が認められた。これで一件落着かと思えるかもしれないが。C型肝炎ウイルスの感染状態、あるいは抗体価からみても、このウイルスが今回の急性肝炎の原因である可能性は低いと結論に至っている。さらに、肝臓のバイオプシーを行って鑑別診断を試みているが、決め手は浮かび上がって来なかった。
   ところが、血中の葉酸濃度、ビタミンB12濃度が高いことから、サプリメントを常用している可能性が浮上し、患者さんが1日4−5本のエネルギードリンクを飲んでいることがわかった。肝炎を誘発できる原因物質をエネルギードリンクの成分表の中から調べると、ビタミンB3(ナイアシン)が最も怪しいと物質として浮上した。
   幸い入院4日目をピークに、症状も、検査データも急速に改善したため、患者さんは退院、エネルギードリンクもやめたおかげ(?)で、再発もなく現在に至るという経過だ。
結論としては、エネルギードリンクに含まれていたナイアシンによる肝炎と診断している。   この報告から、人間の生活習慣は多様で、思いもかけない原因が病気を誘発していることがわかる。私も、エネルギードリンクを毎日4−5本も飲んでいる人がいるとは考えたこともなかった。
   また珍しい症例でも必ず繰り返す。実は一年前、同じようにエネルギードリンク中のナイアシンによる急性肝炎の症例が報告されていた。この1例目の報告が、今回の診断を助けたことは間違いない。
  そして最後に、一般的エビデンスも一人の症例から始まることがわかる。この研究でも報告された2例を比べ、ナイアシンによる肝炎に特徴的な検査データを特定している(内容は省略)。
   おそらく症例報告の重要性がわかっていただけたと思う。
  では本当にナイアシンが急性肝炎の原因なのか?エネルギードリンクメーカーも心配だろう。科学的に言えば、限りなく黒に近く、よく似た症例が2例になっているが、ナイアシンが黒と原因特定されたとは言い切れない。そのためには、もう一度ナイアシンを飲んでもらって肝炎が起こるか確かめる必要がある。しかしそれができない以上、一定数の患者さんが集まるまで、メーカーは知らぬ存ぜぬを通せばいいだろう。
   しかし、この可能性を知った上で患者さんを診ることは重要だ。また、一般の人にも重要な示唆を与えてくれる。すなわち、健康のためと飲んでいるビタミンも、取りすぎると取り返しのつかない病気につながる。実際、米国では年間23000人もの方が、栄養補助のサプリメントが原因で救急搬送されているようだ。

  1. 橋爪良信 より:

    この話題は、カフェイン飲料の過剰摂取が原因で死亡したとされる、ガソリンスタンドの深夜シフトのアルバイト従業員の事案を想起させます。
    従業員が勤務のためにカフェイン飲料を飲み過ぎたことのみを原因とした報道の後、関連報道がすべてなくなりました。マスコミの責任として問いたいのは、カフェインの大量摂取の危険性を伝えるのみではなく、そうせざるを得なかった彼の勤務状況に問題の焦点を当ててほしかったということです。
    飲料メーカーや大手エネルギー商社からの広告収入があるため、関連報道を自粛せざるを得ない状況があることは理解できますが、今一度ジャーナリズムの本質を見つめ直す必要があります。

    1. nishikawa より:

      そんなことがあったのですか。片方でカフェインのせいにしておきながら、少年が飲むのを野放しにする我が国は、なんとか変えないといけません。

  2. 橋爪良信 より:

    先生がそうおっしゃるということは、社会への認知度がそれだけ低いということですので、マスコミは社会的責任を果たしていないということになります。世論を作る議題を提示していないということになります。
    来年の6月には科学ジャーナリズム論で卒論を出します。その後は、本格的に取り組んでいきたいと思います。

    1. nishikawa より:

      私自身は、今のジャーナリズムに失望していますが、是非頑張ってください。

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