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11月29日:ガン発生率の男女差を説明する(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2016年11月29日
   肺がん、膀胱ガン、腎臓癌のように、男女の生活習慣の違いが少なくなった現在も、男性の発生率が明らかに女性より高いガンが存在する。この原因について、ホルモンの影響など様々な理由が考えられてきたが、本当に納得できるところまでには至っていない。
   今日紹介するMITからの論文はX染色体を2本持つ女性では、ガン抑制遺伝子の一方が欠損しても、普通はエピジェネティックに不活化されているもう一方の遺伝子が不活化から逃れることでガンを抑制するセーフガード機構が働くことが、男性よりガン発生率が低い原因であることを示した研究でNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Tumor suppressor genes that escape from X inactivation contribute to cancer sex bias(X染色体不活化を逃れたガン抑制遺伝子がガンの性差に寄与している)」だ。
   結論はタイトルの通りだが、もう少し詳しく説明しよう。何度も紹介したが、哺乳動物のX染色体の片方はエピジェネティックに完全に不活化されている。これは、男性と女性で遺伝子の数が異ならないよう調整する一つのメカニズムだ。しかし、エピジェネティックな変化はリプログラムできる可能性がある。
   X染色体上のガン抑制遺伝子が発ガンに寄与するとすると、男性の場合、もともとX染色体は一本しかないため、突然変異が起こるとそのまま発ガンのスイッチが入る。女性でも通常は一本が完全に不活化されているため、原則的には男性と同じだが、不活化メカニズムがリプログラムされる可能性があると、片方のガン抑制遺伝子が働くことで発ガンのスイッチが入らずにすむ可能性がある。
   この研究は、この可能性を、すでに積み上がっている4000近くのガンゲノムデータを使って確かめようとしたものだ。実際、言われてみるとどうしてこの可能性を思いつかなかったのか不思議なくらいだ。おそらくこれまでも着想はあったのだろう。しかし、大規模に確かめることは難しかった。幸い、ガンゲノムプロジェクトが進み、今や何万もの遺伝子配列を擁するガンデータベースがある。
   この研究はこのガンデータベースを用いて、X染色体の不活化から逃れたガン抑制遺伝子が、女性の発ガン率を下げているという仮説の検証を行っている。具体的には、4000のガンゲノムデータで、ガンだけに発生した突然変異を、「並べ替え検定」という手法を用いて、発生の有意差を男女で比べている。
   驚くことに、18000常染色体上の遺伝子の突然変異で比べると、発生率に全く男女差がない。一方、X染色体上で不活化を受けている783遺伝子のうち、なんと6遺伝子で明確な男女差が見られたという結果だ。そして、この6種類の遺伝子のうち4遺伝子はすでにガン抑制遺伝子として特定されていたという結果だ。
   あとはそれぞれの同じ問題を他のガンでも検討することの重要性、また全Y染色体欠損の問題など多くの面白い問題を扱っているが、説明は省く。結論としては、X染色体の不活化は可逆的であることを念頭に発ガン過程をもう一度見直すことの重要性を説いている。
   ビッグデータベースも、questionがあって初めて利用できることを示す素晴らしい仕事だ。逆に言うと、面白いquestionを着想できれば、データの方から微笑みかけるということだろう。

  1. 橋爪良信 より:

    デジタル化と情報技術の向上がジャーナリズムに与える影響も大きく、情報源・ニュースの素材としてのビッグデータの活用は注目されます。ジャーナリストのquestionの着想に期待するとともに、自らもそれを意識していきたいと思います。

    1. nishikawa より:

      おそらくジャーナリズムも中立は不可能だと思います。その時、どうビッグデータを使っていいのかのガイドラインは重要です。

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