今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、ガンのゲノム解析が進む今、新しい視点でガンにおける微小染色体の意義について徹底的に解析することを目指した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Extrachromosomal oncogene amplification drives tumor evolution and genetic heterogeneity(染色体外のガン遺伝子増幅により腫瘍が進化し、遺伝的多様性が拡大する)」だ。
ガンで染色体が不安定になることは周知の事実で、その結果、微小染色体がガン遺伝子の増幅に関わるだろうという点についてはほとんどの人が納得してしまって、それで終わっていた気がする。著者らは、ガンのゲノムデータの理解には、微少染色体の解析が欠かせないことを認識し、ガン細胞のゲノム、微小染色体数、微小染色体内の遺伝子解析を組み合わせた解析を2500を越す細胞プレパレーションについて行っている。たしかに微小染色体の存在はわかっていても、正確な解析は難しい。この研究ではこの目的に特化した新しいソフトウェアも作っている。
この結果、
1) ほぼ半数のガンで微小染色体が存在しているが、正常細胞ではほとんど見られない。この数は、これまで考えられてきた頻度と比べると極端に高い。
2) 微小染色体の数や内容は同じガンでも多様性が高い。特にグリオブラストーマをはじめとする悪性のガンでは多様性が高い。
3) 増幅しているガン遺伝子の多くは微小染色体上に乗っていることが多い。
4) 微小染色体から染色体に再挿入される例も多い。
5) シミュレーションから、微小染色体上にガン遺伝子がある方がはるかにガン遺伝子増幅が容易で、ガンが悪性化する。 が示されている。
誰もがある程度は予測していた結果だが、この研究のおかげで微小染色体ができることがガンの強みであり、ガンの個性に合わせた治療を考えるときに無視することはできない。このような地道な研究のおかげで、ゲノムデータから正確に微小染色体の数や内容を割り出すことも可能になるだろう。ガン征圧には多様な研究が必要であることを改めて認識した。