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5月26日:更年期肥満の新しい治療戦略 (Natureオンライン版掲載論文)

2017年5月26日
    卵胞刺激ホルモン(FSH)は脳下垂体で合成され、卵巣内で卵子を成熟させる役割があり、生殖にとって重要なホルモンだ。もちろん女性だけではない。男性の精子形成にも重要な機能を担っている。一方FSH分泌は成熟卵胞から分泌されるインヒビンで抑制されているので、閉経による卵胞成熟サイクルがなくなると上昇する。従って、更年期障害に寄与する可能性はあるが、更年期障害にはエストロジェン補充療法もっぱら用いられ、FSH上昇が見られたとしても、卵胞自体の活性が落ちているため更年期障害にはほとんど寄与しないと考えられてきた。
   今日紹介する米国・マウントサイナイ病院からの論文は、FSHが更年期に起こる肥満に関わっていないかは調べてみないとわからないと問い直した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Blocking FSH induces thermogenic adipose tissue and reduces body fat (FSH阻害は脂肪組織の熱発生を誘導し体脂肪を低下させる)」だ。
   要するにこの研究では、卵胞以外にもFSHの標的が存在し、閉経前後にFSHが上昇し始めると、この経路が悪さをするのではと考えた。事実この考えは、すでに骨粗鬆症で確認されている。この研究ではもう一つの問題、更年期による肥満に焦点を絞ってアプローチしている。この目的のためFSH機能を阻害する抗体を作成しマウスに投与すると、期待どおりオスメスともに体脂肪を抑えることができる。この効果が抗体がFSHを抑制する結果であることを確認するため、FSH受容体遺伝子が片方の染色体で欠損したマウスを調べると、同じように体脂肪が低下しており、FSHが確かに脂肪組織の維持に関わっていることがわかった。
   閉経期の女性に対する効果を調べるため、次に卵巣摘出したマウスの肥満を抗体で抑えられるか調べ、骨髄中の脂肪を除くほとんどの脂肪組織の量が低下することを明らかにした。
   さてこのメカニズムだが、FSHは卵胞刺激に関わるシグナルとは異なり、Giタンパク質を介して脂肪組織を刺激し、uncouplerと呼ばれる脂肪代謝の鍵になる分子を抑制しており、FSHの作用を阻害すると、その結果Uncoupler1分子が強く発現し、脂肪が燃える方向にシフトし、白色脂肪組織が褐色化して、最終的に脂肪組織が減ることを明らかにしている。
   まとめると、FSHは卵胞だけでなく、もともと脂肪代謝に関わるホルモンとしての役割があり、閉経により血中濃度が上昇することで、脂肪細胞など繊維芽細胞系に作用して、脂肪を蓄える方向に作用する。従って、この経路を断ち切ると、運動しなくとも脂肪が燃え、体脂肪は低下するという理想的な話だ。
   では脂肪を燃やすために、高い金を払って抗体治療を受けるかどうかで、個人的感触では少なくとも保健医療としての使用は強く制限されるように思う。しかし、シグナル自体はよくわかっていることから、今後化合物の研究が進んで FSH機能阻害薬が生まれれば、大ヒットになるかもしれない。いずれにせよ、抗体を用いた長期間の研究、特に副作用についての研究が必要だ。論文を読むと、すでに人型モノクローナル抗体ができているようで、著者らはやる気満々と見受けた。

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