今日紹介する中国科学アカデミー、上海生物科学研究所からの論文はまさにこの勝ち癖の脳科学をマウスを使って調べた研究で7月14日号のScienceに掲載された。タイトルは「History of winning remodels thalamo-PFC circuit to reinforce sociall dominance(勝つ経験が視床—前頭前皮質の回路を再構成して社会的優位性を高める)」だ。
この研究では透明のチューブの中で二匹のマウスを対峙させ、どちらが押し勝つか戦わせる実験系を使ってマウスの勝敗を決めている。このテストの勝者は相手を押す力が強いだけでなく、相手の押しに対する抵抗性も強い。また、確かに一度勝ち癖がつくと勝つ確率が高まる。このとき、押したり、相手の押しに耐えたりしているときには前頭前皮質の神経が興奮する。
次に、この前頭前皮質の神経細胞の興奮を特異的に抑えることができるマウスを作成し、勝負に最も強いマウスの前頭前皮質の活動を抑えると、押す回数が減り、勝てなくなってしまう。しかし、抑制をとるとまた強いマウスに戻ることから、勝ち癖の回路は維持されている。
次に前頭前皮質の神経細胞を光遺伝学的に興奮させることができるマウスを作成し、今度は負け癖がついたマウスを戦わせるとき、光刺激を入れると刺激の強さに応じて勝つことができる。チャンネルロドプシンを導入する場所を変えて実験し、前帯状皮質の前方及び辺縁系前部が勝つ力を引き出していることを明らかにしている。
驚くのはこのように光刺激で勝たせると、勝ち癖がしっかりついてランクを維持できることで、回路が長期的にリモデルできたことを示している。そして最後に、この長期効果が視床背側中部と前頭前皮質の神経シナプスがN-methyl-D-aspartate受容体を介して増強されることによることを示している。
またこうしてついた勝ち癖は、一対一の勝負だけでなく、数匹が争いあってケージの暖かい場所を取り合う競争でも勝つことができることも示している。
要するに勝ち癖につながるメンタルを支配する脳メカニズムをマウスで明らかにしたという研究で、面白く読むことができる。しかしこの結果をそのままスポーツに応用しようと考えたりすると、新しいドーピングにつながるかもしれない。IOCも大変だ。
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