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7月30日抗PD-1抗体治療とミスマッチリペア変異(7月28日Science掲載論文)

2017年7月30日
2ヶ月ほど前、どのメディアか覚えていないが、DNA複製時のエラーを修復する酵素の機能が失われたか、あるいはマイクロサテライト不安定性が見られる全ての固形ガンを、メルクの抗PD-1抗体キイトルーダの対象とできることをFDAが認可したというニュースが報告された。これを聞いた時、「適切なポイントに注目して適用を広げているな」という印象を持った。というのも、我が国でもどの患者さんにPD-1抗体の治療を行うかについて議論が行われており、適用を決めるためのマーカーを探そうという動きも行われているが、この治療が、結局はガンに対する免疫が成立している患者さんにしか効かないこと、またガンに対する免疫は、突然変異の数の多いガンほど成立しやすいというこれまで蓄積されている(私でも論文を通して知っている)結果を積極的に使おうという話は聞こえてこなかった。しかし、5月の報道の通り、メルクは事実に症例を絞り着々と準備を重ねていた。
   今日紹介するジョンホプキンス大学とメルクの共同論文は、すでにFDAに認可されている。PD-1抗体治療の適応を決めるための分子マーカーとしてのミスマッチ修復酵素の変異をクレームする時の下敷きとなったデータを改めて論文に仕上げたもので、7月28日号のScienceに掲載されている。タイトルは「Mismatch repair deficiency predicts response of solid tumor to PD-1 blockade(PD-1阻害に対する固形ガンの反応性をミスマッチ修復酵素の欠損が予測できる)」だ。
  はっきり言って、まとまりのない論文だなという印象だ。
研究では部位を問わず固形ガン患者さんの中から、ミスマッチ修復に関わる4種類の遺伝子のいずれかに生まれつき変異を持つ人を選び、PD-1に対する抗体治療を行っている。この研究では、変異のないコントロールを全く置かない観察研究だが、それでも86例中66例でガンの進行を抑えることに成功し、すっかりガンが消えたのが21%、部分的効果がえられたのが33%、ガンの縮小はないが病気自体が安定したのが23%で、悪化したのは14%に過ぎなかった。そして、二年以上悪化が見られないのが6割近くに達している。観察研究とはいえ、この結果は赫赫たる成果といえ、おそらくこれを基礎にFDA の認可が行われたのだろうと思う。
   あとは、腫瘍が退縮したケースのガン組織のバイオプシーにより、ガンの退縮の確認、病理的瘢痕像などの確認、最初から反応しなかったケースのエクソーム解析、原発巣と転移巣の比較を行っている。残念ながらなぜ効果が得られなかったのかについて、ガン側の明確な理由は見つかっていないが、転移巣と原発巣の比較では、転移巣ではなんと1000近くの新しい突然変異が加わっていることを示し、ミスマッチ修復が障害されると急速に突然変異が蓄積することも確認している。
ケースを選んで経過中のエクソーム解析も丹念に行っており、急に悪化する場合これまで報告されているようにβ2ミクログロブリン遺伝子の変異が腫瘍抵抗性の原因になることを示している。
   加えて、一部の症例について、ガン組織では特定のT細胞受容体が濃縮されていること、またネオ抗原の特定、ペプチドに対する反応などを明らかにし、チェックポイント治療によりガンに対するT細胞の反応が本当に誘導され治療につながったことを示している。
   最初から細かく計画を立てず、患者さんの経過に応じて検査を重ねるといったスタイルの研究で、完成した研究というより、経過報告といった感じの論文だ。それでも、ほとんどの固形ガンを視野に入れ、突然変異の数から免疫に使えるネオ抗原とリンクさせた点は、PD-1の新しい展開になるだろう。この研究はさらに続くだろうし、実際に臨床応用が進みこの結果の確認はすぐ行われるだろう。
   繰り返すが、PD-1治療の成否はガン免疫の誘導ができるかどうかにかかっている。この当たり前のことを考慮した、最もストレートな分子標的による適用の決定法の開発を本家の我が国でも開発して欲しいとおもう。

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