ウイルス側にはICP34.5分子が存在し、ウイルス感染で細胞内に起こる宿主細胞のストレス反応を抑えることで、感染した細胞内で増殖ができるようになっている。TalimogeneのミソはICP34.5を外してしまって、正常細胞では増殖できないようにし、ストレス反応がもともと低下しているがん細胞だけで増殖できるようにした点だ。すなわち、ウイルスを使って腫瘍だけを溶かしてしまおうという面白いアイデアの治療だ。ただ、それだけでは全身効果が望めないので、ICP34.5の代わりにマクロファージを呼び寄せるGM-CSFが組み込まれており、壊れた細胞を処理して免疫反応を誘導できればウイルスを注射していない場所のガンにも効くという隠し味が加えられていた。しかし、FDAに認可されたとはいえ、治験結果は患者さんの生存自体には影響がないと、隠し味で狙った免疫増強効果は否定された。
今日紹介するUCLAを始めとする他施設共同の第1相治験は、Talimogeneの免疫誘導作用を抗PD-1チェックポイント治療と組み合わせて高められないか調べた研究で9月7日号のCellに掲載された。タイトルは「Oncolytic virotherapy promotes intratumoral T cell infiltration and improves anti-PD1 immunotherapy(腫瘍溶解性ウイルス治療は腫瘍内のT細胞浸潤を高め抗PD−1抗体治療を改善する)」だ。
しかし第1相の臨床試験がCellに掲載される時代が来たのだと驚く。今後Nature, Cellなどにますます臨床論文が増えそうだ。
すでに前書きに述べたようにこの研究の目的は明確で、TalimogeneがPD-1抗体と組み合わせることで、個別の治療以上の効果があるかどうか調べることだ。 治験ではまず腫瘍内にTalimogeneを注射して6週間待ち、抗PD-1治療(メルク社の抗体を用いている)開始、その後の生存、腫瘍局所の細胞浸潤を調べている。コントロールを置いているわけではなく、効果については正確には論評できない。ただ、これまでの多くの臨床治験から抗PD1治療は33%のメラノーマ患者さんにしか効果がないので、これを上回ればいいと主張している。
結果は期待通りで、ほぼ倍の62%の患者さんの腫瘍が完全消失し、80週消えたまま経過している。また、全体の生存も19ヶ月時点で8割を超えているので、期待できるという結果だ。
この研究のもう一つの目的は、先に述べた隠し味が本当に効くことを組織学的に証明することで、治療前、Talimogene注射後、そしてTalimogene+anti-PD1治療後について、ウイルスを注射した場所と、注射しなかった場所の組織を調べている。結論としては、ウイルス注入部にまずキラーT細胞の浸潤が起こり、また注入しなかった場所にも細胞の浸潤がおこり、また末梢血のキラー細胞などの免疫担当細胞も上昇し、全身に散らばる腫瘍増殖を抑制でき、隠し味は有効だったという話だ。
現在600例を越す第3相の治験が進んでいるようで、結論はこの結果を見てからになる。わざわざ中間報告をしたのは、それがうまくいっていることをチラッと示すためで、本当にCellにふさわしい論文かについては疑問を持った。いずれにせよ、チェックポイント療法を高めるための新しい治療が世界中で進む現状を見ると、本家の我が国でも、もっと免疫を高め効果を100%にする研究が進んで欲しいと思う。