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10月17日:熱いお風呂は顔面や心臓の発生異常の原因になるか?(10月12日号Science Translational Medicine掲載論文)

2017年10月17日
現役時代、私たちの重要な研究対象だった神経堤細胞は、神経管で誕生した後、長い移動を経て様々な臓器に落ち着き、形態形成に関わる。体の中で最も複雑な形態を示す顔の骨や筋肉はすべて神経堤細胞がそれぞれの場所に移動して形成されるし、複雑な発生過程が必要な心臓にも移動して様々な場所で形態形成に関わる。この過程の異常の一部は遺伝的要因が特定されているが、ほとんどが発生過程でのアクシデントで起こることがわかっている。この危険因子の一つとして、母親の発熱が知られており、さらに感染による発熱だけでなく、熱いお風呂に入ることも神経堤細胞由来器官の発生異常が起こることも報告されている。

今日紹介するデューク大学からの論文はこの熱による神経堤細胞の発生異常のメカニズムを解明した研究でで10月12日号のScience Translational Medicineに発表された。タイトルは「Temperature activated ion channels in neural crest cells confer maternal fever associated birth defect(温度で活性化される神経堤細胞のイオンチャンネルが母親の熱による出生異常が誘導される)」だ。

発熱による発生異常のメカニズムを調べるため、著者らは神経堤発生研究に伝統的に使われてきたニワトリをモデルとして選び、まず発生過程で一過性に高温にさらすと、顔面と心臓の奇形が多発することを明らかにした。

この原因が、神経堤細胞に発現している熱に反応して開くカルシウムチャンネル( TRPV)が刺激される結果ではないかと考え、ニワトリ神経堤細胞での遺伝子発現を調べ、TRPV1,TRPV4の2種類が発現し、温度を40度にあげるとチャンネルが活性化することを突き止める。また、刺激実験からニワトリだけでなくマウスの神経堤細胞でも両方のチャンネルが働いていることを確認している。

次に、チャンネルの阻害剤を用いて、熱による奇形を防げないか検討し、TRVP4は正常の神経堤細胞発生過程でも働いており、阻害するだけで奇形が出ること、一方TRVP1は正常発生には働いていないが、阻害剤で胎児を処理することで熱による奇形の発生を完全ではないが抑えることができることを示している。

最後にTRPVを刺激すると奇形が発生するのか調べるため、凝った実験系を用いている。すなわちTRPV1、TRPV4に鉄結合性のトランスフェリンを結合させ、電磁場で活性できるようにした遺伝子を合成(http://aasj.jp/news/watch/5022参照)し、この遺伝子を発生中の胎児に導入して、任意のステージでにTRPVを遠隔操作で活性化できる系を確立している。この系で発生中の胎児を電磁場に晒すと心臓、顔面の奇形が発生することが確認された。

以上の結果は、神経堤細胞の発生中に熱にさらされるとTRPV1,4が活性化し、心臓や口蓋裂などの顔面奇形が発生する可能性を明確に示している。残念ながら、TRPV活性化が神経堤細胞の何を変化させるのかは全く不明のままだが、おそらく胎児の発生異常防止に関して重要な貢献ではないかと思う。 これまで、高い温度のお風呂は妊婦さんによくないことは知られていたが、その理由が子供の奇形を誘発する可能性があるからということは考えられていなかった。もしこの論文が正しければ、妊娠12週までは熱い風呂に入るのは我慢した方がいいことになる。我が国は特に風呂が生活に根付いている。しかし奇形が減るなら、妊娠が疑われたら3ヶ月間はぬるい風呂か、シャワーで我慢しても何の問題もないだろう。

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